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人気の小さな水槽展示、学芸員の意図は?

コラムリレー08「博物館~資料のウラ側」第21回

 札幌市博物館活動センターでは、決まって来館者がかぶりついて見ているモノがあります。それは小さな水槽。その裏側には、学芸員の考え抜かれた深~い展示意図が隠されて・・・いません。2017年になんとなく水槽を置いて以来、じっくり見ている来館者が多いというので、なんとなく続けてきたというのが事実です。ところが、2025年春、来館者に「一番印象に残った展示物は何ですか?」という質問をしてみると、「水の中のいきもの(水槽)」という答えが多く、学芸員自身が一番驚いています。

水槽の生き物を紹介する手書きPOP風のキャプション例。一部を除き、学芸員がほぼ一発描き。

 そもそも活動センター自体は、動物園や水族館等のように、生きている動植物を常時展示する場ではありません。その中にあって、ここだけ唐突に異質な空間となっています。(生きた生き物を常時見せることについて、管理面を含めスタッフ内で異論はありました。)生きているものは、当然ながら魅力的。「万人に受け入れられやすい」という点では、自然史博物館で人気を誇る化石をも凌ぐ集客効果があるかもしれない!そんな下心すらないままに、この水槽展示は始まったのでした。

 発端は2017年夏に実施した企画展「さっぽろの原風景 水草」展です。この展示は札幌付近でよく見られる水草を生きた状態で見せることで、自然史博物館に興味のない人たちの目を引く展示になるように意識しました。そこで、「博物館の外の人」の感覚(一般市民感覚)を持つ事務系職員から「キレイじゃないと見ない」というアドバイスをもらい、展示スペースの半分は壁に暗幕を張って暗室を作り出し、水草をライトアップして展示するなどしました。とはいえ、私は見せるために水草を栽培した経験がほぼゼロ。約1か月の会期中、野外でフレッシュな水草を採集してきて裏でストックしておき、展示中の水草が傷んでくると植え替えたり、透明で見やすい水槽に保つために夜遅くまで掃除したり・・・。

札幌市博物館活動センター2017年夏の企画展「さっぽろの原風景 水草」展。暗がりで水草をライトアップ。もう半分のスペースは通常の照明で水草を学ぶ展示にしました。
裏庭のストックヤード。ネットをかけても、カラスの水浴場になっていました。(現在は撤去。)

 そして、企画展が終わり、まだ青々していたミズハコベの水槽はもったいないので残すことにしました。それが、現在の水槽展示「水の中のいきもの」の原形です。しかし、一足飛びに人気展示になったのではなく、水槽の前で来館者とこんな会話が繰り返され続けています。

Before(原形となった水槽、2017年当時)

来館者「あ、水槽だ!・・・あれ~?何もいないねー」(スルーしかける。)

学芸員(呼び止めるように)「この中には水草がいますよ~!!」

来館者「へぇ~水草って何?」(水槽に近づいて見る。)「あ!何か動いた!何ですかコレ?」

学芸員(水草の説明したいなぁと思いつつ)「・・・一緒に図鑑で調べてみましょう!」

こうした来館者とのやりとりによって、日々、小さな生き物が見出されています。そのたびに生き物紹介を追加するうち、はじめは水草だけだったキャプション(手書きPOP風)が増えて“にぎやか”になってきました。すると、紹介されている生き物を自分で探そうと、中には10分以上も水槽を観察し続けたり、観察中に別の生き物を見つけて展示解説員と話しが盛り上ったりという相乗効果も生まれています。

After(2025年現在)。学芸員が水草調査に行くと、いつの間にか「適当に」水草が追加されます。

 このように、札幌市博物館活動センターで人気の展示は「何がいるか分からない、(いい意味で)適当に管理している水槽」です。その水槽は誰もが無意識にのぞき込んでしまいます。なぜなら、好奇心を刺激し、自発的に観察する行動を起こさせ、動く生き物を入口に植物など幅広く生物に興味を持ってもらえる“誘い水”となるように設置されたからです。

・・・などというのは、後付けで考えたカッコイイ展示意図です。

              札幌市博物館活動センター 学芸員 山崎真実