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楽屋(収蔵庫)からステージ(展示室)へ、資料を支える展示ケースについて

コラムリレー08「博物館~資料のウラ側」第20

本シリーズ「博物館~資料のウラ側」では、これまで主に資料そのものについて語られてきましたが、今回は資料を表舞台に立たせるために欠かせない「展示ケース」に焦点を当てます。

博物館における「展示」は、「研究」、「収集」、「保存」と並んで、博物館を定義するための根本的な取組みの一つに位置づけられています(博物館の主な機能や活動については、本シリーズの第11回第15回をぜひご覧下さい)。
参考リンク:ICOM日本委員会による博物館定義日本語確定訳文

展示活動を表現者のライブパフォーマンスにたとえてみる

ここでは、思い切って資料の展示活用を表現者のライブパフォーマンスにたとえてみましょう(あくまでも比喩です)。

博物館のいわゆる常設展示は、地元のライブハウスや小規模会場での定期的なパフォーマンスにあたります。一方、特別展示は、予算にもよりますが、全国の大規模会場を巡るツアーや野外音楽フェスティバルのメインステージのような位置づけでしょう。実際に「巡回展」という形で全国を回る展示もあります。特別展示は、現物資料が放つ熱を帯びたメッセージやストーリーを体感できる特別な機会です。

資料は、ステージに立つために楽屋(収蔵庫)で虎視眈々と準備をしており、その演目を日々の研究によって考えているのが学芸員です。そして、このライブ会場でのステージ(土台)となるのが「展示ケース」です。

前置きは以上で、ここからは北海道博物館での展示ケースを例に、展示ケース内のライブ環境に目を向けてみましょう。

観覧者と資料(パフォーマー)の間に立つ展示ケースの重要な役割

まず、ステージ上は清潔であることが大切です。学芸員は展示と展示の合間の期間に、展示ケース内の清掃をして不要なホコリや虫の死骸などを除去します。

そして、資料が安全にライブを行うためにはセキュリティも大切ですね。資料の観覧者もつい熱が入って資料を手に取ってみたくなると思いますが、資料は人間よりもはるかに長生きしてきたものが多く、脆弱なことも少なくないため、観覧者と資料はガラスやアクリルで仕切られています(鼻の頭をぶつけてしまった経験はありませんか?)。また、地震等で資料が大きく移動しないように重量があり、床にガッチリと固定できるようになっています。

のぞきケースは平らな資料が見やすい

背の高いガラスケースは立体物を様々な角度から見られる

次に、ステージ上は資料にとって快適な環境であることが重要です。具体的には、資料の長期公開中に負担がかかりすぎない程度の温湿度や空気環境を整えることです。展示ケースの中には、極めて密閉性能の高いものがあります。このケース内に「調湿剤」を入れると、相対湿度を一定の範囲に保つことができます。また、高価なケースには換気機能を備えたものもあり、空気環境の調整も可能です。

照明も重要で、資料にとって強すぎず、観覧者には見やすい光が求められます。そのため、光の強さの調整や、熱を遮る工夫が施されています。

密閉性能の高いケース、展示条件の指定が厳しい資料や背の高い資料を展示できる

このように、資料によっては展示ケースによって初めて表舞台に立つ準備が整うのです。他館からお借りした資料を展示する際には、資料の状態によって展示環境の条件が指定されることがありますので、展示ケースの働きなしには安全で快適な公開環境を整えることは難しいでしょう。

筆者は展示会に出かけると、ついつい展示ケースや展示方法に目がいってしまいますが、これはもう職業病かもしれません。

皆さんも次回博物館を訪れた際は、ぜひ「ステージ」としての展示ケースにも注目してみてください。

(北海道博物館 学芸員 高橋佳久)