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ガラス板の記憶【コラムリレー07 第1回】

 コラムリレーをご覧いただきありがとうございます。今回から第7シリーズが始まります。今シリーズはシンプルに「学芸員のお仕事」というテーマを設定させていただきました。学芸員と一言でいえども、それぞれの専門分野、勤務する地域によって、その仕事内容は千差万別です。知られているようで、意外に知られていない学芸員の仕事を、コラムリレーを通じて多くの皆さまに知っていただけましたら幸いです。

 さて、私のお話はつい先日のこと。美幌博物館には、館内収蔵庫の他に、館外にも資料を保管する収蔵庫があります。数年前、館外にある収蔵庫の老朽化に伴い、別の施設に資料を移したのを機に、収蔵資料の再整理を行なうことになりました。私自身は、遺跡の有無を確認する埋蔵文化財の調査を主な仕事としていますが、その合間に少しずつ資料整理を進めているところです。館外の収蔵庫には、農具や民具などを中心に数千点の資料が収蔵されており、細かな資料は段ボール箱にひとまとめとなり保管されています。開館以来30数年にも及ぶ収蔵資料の全てを把握していたわけではありませんので、再整理では資料の保管状態を確認しつつ、内容の把握も行なっています。

収蔵庫で見つけたガラス乾板

 そのような中で、先日とある段ボール箱を開けてみると、小さな箱の中に黒いガラス板が収められているのをみつけました。そのガラス板に光を透かすと、人や建物のようなものが見えます。これはガラス乾板と呼ばれるもので、明治から昭和の初め頃まで使われたカメラのフィルムのような役割をしたものです。ガラス乾板は、学芸員にとって貴重な情報源です。古い街並みや人々の生活の様子、自然の風景など、今では私たちの記憶から失われてしまった近代の歴史を記録している可能性があるものと言えます。そのような情報を見つけ出し、記録保存していくのも学芸員の仕事の1つと言えるでしょう。

明治42年 美幌尋常小学校の運動会 (美幌博物館収蔵資料)

 それでは、古い写真からどんな情報が得られるのか、例として1枚の写真を用意しました。この写真は、明治42年に美幌尋常小学校で初めて行われた運動会の様子を写したものです。

 運動会に参加した児童数は約160名と記録されています。写真を見る限りでは記録通りのようです。子供達が2つの集団に別れていますが、よく見ると向かって右に男子児童、左に女子児童が集められており、男性教師と女性教師と思われる人物もそれぞれの集団の中にいることがわかります。女子児童が少ないのが気になりますね。

 子供達の頭上には、万国旗がはためいているのがわかります。万国旗は、華やかなイベントの象徴として、明治時代に急速に広まったものですが、その流行が美幌町にも及んでいたのがわかります。

 子供達の後ろに見える幕には、なにやら文字が書かれています。読んでみると美幌神社と書かれているようです。神社の「のぼり旗」を横断幕として利用したのでしょうか。

 このように、古い写真には様々な情報が残されていることがわかります。

 今回見つかったガラス乾板の人物や風景、建物について、大正〜昭和の初め頃に撮影されたものということ以外、まだ何もわかっていません。これらの資料が地域の歴史を補完するものになるのか、新たな発見に繋がるものなのかは、これから分析していくことになります。学芸員の腕の見せ所といったところでしょうか。再び日の目を見たガラス乾板、この記憶を未来に繋ぐ架け橋になれるよう頑張っていきたいと思います。

〈美幌博物館 学芸員 八重柏 誠〉