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北海道開拓にルーツを持つ相棒 【コラムリレー06 第28回】

私が紹介するひみつ道具は「鉛筆」です。特別秘密にしてきたつもりはありませんが、少々こだわっているものということでお許しください。

資料・作品の汚損を避けるため、多くの博物館や美術館では使用できる筆記具が限定されており、世界中で共通して使用可能な筆記具が鉛筆なのです。これは、インク等の染料が付着した場合には、物質の内部にまで色素が沈着することとなり、その汚損を回復することが著しく困難であることが大きな要因で、鉛筆や木炭といった顔料系の筆記具の場合は、表面に付着した粒子を取り除くことで対応が可能であるというリスク管理に基づく制限なのです。当然のことながら、資料・作品を汚損するリスクの少ないことが望ましいわけで、鉛筆であっても芯が折れにくい方が良く、何本も持ち込まないで済むこと、極力ゴミを出さないことが理想です。そこで、顔料系の筆記具であるシャープペンシルの持ち込みに関しては、一本で削る必要なく芯が繰り出される利便性と、その細い芯が折れやすい特性、先端の鋭利な金属部分による直接損傷の危険性などから各々の館の判断が分かれるところとなっています。

展示室はもちろん、収蔵庫などへの入室機会が多く、資料・作品に接する機会の多い学芸員の職務上、筆記具の選択はリスク管理と信用に関わる重要事項です。一般に規制する以上に気を使うべき道具なのですが、上記の一長一短な性格から適切な道具を探し求め続けてきました。

そして現在、愛用しているのが北星鉛筆株式会社の「大人の鉛筆」です。

ペンギン好きの私はpencoとのコラボ商品をチョイス!(軸部のプリントは解読不能となってきました(笑))

物体が接触して傷ができる要因としては、鋭利なもの、硬質なものとの接触があげられます。この点で、製図用を含むシャープペンシルの多くは展示室・収蔵庫内の使用に難があるのですが、木製軸を採用し折れにくい太い芯を使用することで鋭利なガイドパイプを不要としたこの鉛筆は、そのリスクを軽減してくれます。また、シャ-プペンシルのように軸を繰り出すことができ、複数本の筆記具を持つ必要がありませんし、専用の鉛筆削りを使用すれば削りかすを落とす可能性も少ないという博物館で使用する筆記具の理想に近い逸品です。

芯はこんな感じ。HBを常用です。

なお、北星鉛筆(“ほくせい”ではなく“きたぼし”えんぴつ)は名前からお察しの方もいるかもしれませんが、北海道開拓にルーツを持つ会社です。会社ホームページによると、明治30年に屯田兵として北海道に渡った祖先が水松(イチイ・オンコ)に目をつけて杉谷木材を興したと記しています。明治30年・31年の湧別町へ入植した屯田兵を確認してみると三重もしくは佐賀出身者に「杉谷」の名前が確認できます。杉谷木材は鉛筆の板材「スラット」を製造するようになり内地の鉛筆会社に出荷。その後、紆余曲折を得て東京の月星鉛筆の東京設備を買収し、昭和26年に創立したのが北星鉛筆株式会社ということです。現在の軸材が北海道産のオンコでないことは少々残念にも感じますが、今後も扱いやすく安全な筆記具へと変貌していくことを期待したいと思います。
注;今回紹介したタイプの筆記具も規制対象としている博物館・美術館もあるかと思います。持ち込み・仕様に際しては受付等で確認されることをお勧めします。

(北海道開拓の村学芸員 細川 健裕)