私は鳥類の分布や生態を調べることを専門としているので、鳥を観察するために「双眼鏡」は必須の道具です。
双眼鏡は大きさや倍率など、いろいろなものが出ていますが、私は写真のコーワの双眼鏡(図1)を使っています。双眼鏡の本体に記載されている「10×32 Field 6.0°」(図2)は、双眼鏡の仕様を表した数字で、どの双眼鏡にも記載されています。10は倍率、32は口径の大きさ(mm)、Field 6.0は実視界です。
鳥の調査のために私が双眼鏡を選ぶ基準をお話します(あくまで私見)。双眼鏡の倍率は12倍以上の高倍率のものも販売されていますが、高倍率が鳥を観察しやすいとは限りません。高倍率になればなるほど視野が狭くなり、またちょっとした手の動きで手ブレをおこしやすいなどのデメリットが出てきます。特によく動く森林性の鳥の観察には7~8倍程度が良いと思います。私は10倍を使っていますが、慣れるまでは8倍を使っていました。
また、鳥の調査は行動が活発な早朝や夕方など、薄暗い時間帯に行うことがよくあります。その時、口径の小さな双眼鏡だと充分な光を取り入れることができずに、暗くて鳥が識別しづらくなります。この場合は口径が大きい双眼鏡が明るく有利ですが、あまり大きいと重く大型になっていきます。私は仕事外や移動中でもできるだけ見た鳥を記録しているため、持ち運びの利便性を考え、双眼鏡としては中くらいの大きさ(口径30~40mm、約500g以下)を使っています。あと、意外と重要なのが見え味に関わるレンズの質です。安価な双眼鏡のレンズは劣化が早かったりするので、そこそこ高くても実績のあるメーカーのものを選ぶようにしています。
実は私の今の双眼鏡の本領が発揮されたのが海鳥調査です。海鳥の観察の難易度は陸の鳥の比ではありません。まず、ほとんどの種が灰色や黒など地味な羽色をしています。これは曇りの日の海の色に近い色で、海面ではとても見づらくなります。また、海は鏡のようなべた凪ぎになる日が少なく、波高が少しでもあれば波間に鳥が隠れてしまいます。さらに揺れる船、吹き曝しの強風、日光の海面反射がより観察を阻害します。このように厳しい観察条件の海鳥調査でしたが、 双眼鏡の堅牢さ、視界の広さ、明るさ、見え味は陸上ではそこまで感じなかったほど素晴らしいものでした。
今の双眼鏡とは5年ほどの付き合いですが、いろいろな調査現場に行ったおかげかその使い心地は手の一部のようになっています。昨年着任したばかりの苫小牧も、火山あり、湿原あり、海ありで活躍の場はますます広がりそうです。新機種や高スペックの双眼鏡の誘惑に負けずに、これからも良き”パートナー”として大切にしたいと思います。
苫小牧市美術博物館 学芸員 江崎逸郎