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手作りの魚道【コラムリレー第15回】

「サケが、土手をのぼった!」 なんだか、よくわからない状況に驚く私に、その方は、さらに大きな声で。「サケが、段差を越えられず、土手から川の上流を目指していったんだ!」。やっぱり、よくわからない。

詳しく話を聞いてみると、状況はこうです。

ご存知の方も多いと思いますが、サケは産卵のため、海から故郷の川に戻ってきます。そして、川の上流を目指して遡上し、途中に段差などがあれば、ジャンプをして乗り越えていきます。

ところが、今回教えていただいた場所には、人工の大きな段差がありました。この段差のせいで、サケが上流へ遡上できなくなっていました。何度も何度もジャンプしているうちに、サケは土手に上がってしまい、そして、今度は、土手を飛び跳ねながら、段差を越えようと必死にもがいていたとのことでした。

「このままではサケが可哀そうだ」その最後の一言に、多くの方が共感し、魚道づくりが始まりました。

サケが越えられなかった落差工

サケが越えられなかった落差工

1mをこえる落差

1mをこえる落差

近年、様々な場所で、治水や農地開発が行われ、川は直線化され、コンクリートで固められてしまいました。また、直線化にともなって、川が急こう配になるのを防ぐため、落差工と言われる構造物が次々と造られました。こうして、自然豊かだった川は、生き物の生息に適さない寂しい場所となってしまったのです。私の住む美幌町でも、多くの川が直線化され、たくさんの落差工が設置されています。

ところが、宅地を抜け、畑を横切り、川をさかのぼっていくと、上流域には、うっそうとした森が残っていることがあります。この森の中では、川が自由に蛇行して流れ、水は飲めそうなぐらい透きとおっています。本来であれば、こうした場所には、たくさんのヤマメやアメマスなどのサケ科魚類を見ることができるはずですが、多数の落差工が設置された川の上流では、魚類相が極端に乏しくなります。

自然豊かな森の中を流れる川

自然豊かな森の中を流れる川

魚類相が乏しくなる理由には、北海道の淡水魚がもつ特有の生態が影響しています。一般に淡水魚は、川で一生を過ごすものと、川と海を定期的に往復するものがいます。水温の低い北海道の川では、一生を淡水中で過ごすよりも、一次生産量の高い海で成長した方が個体の適応度が高まると言われています。そのため、北海道の淡水魚の多くは、海とのつながりを持ちます。

しかし、川の中に移動を妨げるものができてしまうと、減少の一途をたどることになります。

本来の形

多様な生物物を育む川

魚たちにとって、1m以上ある落差工は、超えることの難しい壁です①。そのため、落差工に魚道を設置することが急務の課題でした。しかし、従来までの魚道は、設置に莫大な費用がかかるうえに、魚がジャンプして落差を越えるという構造上の欠点がありました。(魚が水面からジャンプするためには、たくさんのエネルギーを使います。また、着地点が悪ければ、魚体が傷つく危険があります。そのため、魚がやたらと跳びはねる魚道は、改善が必要です。)そこで、私たちが作った魚道には、いくつかの工夫を施しました。

まず、丸太や畑から取り除かれた石など、地域にある材料を利用して、落差を軽減させました②。次に、石をつけた斜路を設置し、多様な流れを生み出すことで、フクドジョウやハナカジカなどの泳ぎの下手な魚でも落差工を遡上できるようにしました③。すると、魚たちは次々と落差工を泳ぎあがっていったのです。

手作り魚道の仕組み

手作り魚道の仕組み

多くの方の協力で、一度は排水路と化した川が、再び自然の姿を取り戻しつつあります。今後は、設置した魚道の耐久性や魚の生息数などを調査し、魚道の効果を詳しく検証していきます。そして、必要に応じて修復や改良を施し、より良い魚道を目指していきます。

それと同時に、身近な自然を守る取り組みについて、多くの方に知って頂けるような活動を行っていきます。

改良した落差工

改良した落差工

こうした地域に根差した活動もまた、博物館が果たす大きな役割だと思います。今回の活動をとおして、地域の未来をつくるために、博物館にできる可能性の大きさを痛感しました。そして、なによりこの活動に賛同し、協力してくれた多くの方の笑顔が今でも忘れられません。そんな皆さんに感謝し、結びとしたいと思います。

<美幌博物館 町田善康>

 

次回は、湧別町ふるさと館JRYの林 勇介さんの投稿です。お楽しみに。