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博物館資料整理とマトリョーシュカ【コラムリレー07 第21回】

博物館の仕事は楽しいことだらけです。新しい資料を集めるのも楽しいし、寄贈者からお宅の博物館に寄贈してよかったと言われるのは博物館冥利に尽きます。あれこれ調べるのも、調べたことを文章にするのも楽しいし、講座の企画を立てたり、問合せの回答を作ったりするのも、展示室の案内や、もちろん展示を作るのはなんといっても華で、これぞ学芸員の醍醐味と言ってよいでしょう。この楽しいことだらけの博物館の仕事のうち、私が一番好きなのは資料整理です。できればずっと収蔵庫にこもって資料の整理作業をしていたい…

 ところで、博物館資料整理の仕事にも役立つだろうと、整理収納の資格を取りに行ったときのことです。整理というのは、いるものといらないものを分ける作業をさすというのです。ええー、知らなかった。博物館が収集したものにいらないものはありません。この定義でいくと博物館では整理作業はないということになってしまいます。

 実際には博物館で資料整理というときは、もう少し範囲が広くなって、保存環境や修復、登録作業、クリーニングなども一緒になっていることが多いです。

 博物館が整理する対象は大きく二つあります。一つは資料そのものです。もう一つは資料の情報です。この二つを私たちの博物館では資料番号で結んでいます。ですから資料に番号を与える作業が資料整理のはじまりになります。番号を与えることなんて簡単なことに思われるかもしれませんが、例えばマトリョーシュカ人形を何点とするかなど、結構頭を悩ますのです。

わたしは何人?

資料そのものの整理

 資料そのものの整理で大事なことは、ミュージアムゼロの状態を保つことです。ミュージアムゼロというのは資料が博物館に収蔵された瞬間の状態のことで、この時より極力劣化させないという考え方です。そのために博物館では数々の方策をとっています。

 もうひとつ大事なのは資料を行方不明にしないことです。資料の住所をつくり、確実にそこにあるようにします。23L5-2というのが当館の資料住所で、これは第2収蔵庫の3階の棚番号Lの5番目の引き出しにいれた箱No.2のなかにあるということになります。

資料情報の整理

 博物館資料には関連する情報があります。情報は資料価値をあげるものです。収集時についてきた情報もあれば、収蔵後に調べてわかる情報もあります。いつ頃作られたとか、誰が作ったとか、何が素材なのかとか大きさや重さ等々。そしていま資料が23L5-2にあるということや展示や貸出、修復の履歴も資料情報になります。

 さて、この資料を何とするでしょうか?

 スプーン しゃもじ レードル?

 どの名称が一番ふさわしいかを考えてしまうとなかなか次の整理作業にすすめません。バイオリンにするか、ヴァイオリンにするかといった表記の揺れもあります。それで当館では整理の第一段階では迷わなくてよいように、整理用名称の一覧を用意して、そのなかから選ぶことになっています。

 ちなみ当館の一覧表ではこういう形状の何かすくうものは全部「さじ」です。なんておおざっぱな!と思われるかもしれません。第一段階ではさじですが、当館では資料名称は場面にあわせたふさわしいものを使うことになっているのでスプーンとなることもあるでしょうし、素材情報がつくことも、模様の名称がつくことや、フニガと現地名のこともあるかもしれません。

 さまざまな資料情報はカードに鉛筆書きして、資料ごとの紙ファイルに収めます。この紙ファイルには、資料についてきたラベルや、収集元とのやりとりの手紙、資料を計測したときの用紙など関連するものも挟んであります。

 コンピュータ用のデータベース化も行っています。データベースのメリットは検索です。当館ではかなり早い時期からデータベースソフトを使っていたため、そのソフトウェアがひらがなとカタカナの違いを受け付けてくれなかったというような時代の名残で用語の統一をしているという事情もあります。資料情報整理には紙とデジタルのそれぞれに良いところがあるので、今後もアナログとデジタルの両方で続けることにしています。博物館には共通の資料整理法があるわけではなく、各館によって整理のやり方も考え方も違っており、他館の状況もずいぶん参考にしてきました。

 博物館の役割はいろいろあり、役割が増えている傾向もみられますが、究極的には社会の蔵です。ということで、倉庫番としての仕事の一端を紹介してみました。

<北海道立北方民族博物館 笹倉いる美>