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アポイ岳の高山植物の生息域外保全 【コラムリレー07 第20回】

「職業は何ですか?」と聞かれて、学芸員と答えると、「初めて聞く職業名です。どのような仕事ですか?」となることが時々あります。それだけ学芸員という職業が世間にはあまり知られていないということなのだと思います。私が学芸員という職業を知ったのは、高校3年生のとき、部活の先生に「水永さんは学芸員か自然保護官が向いていそうだなぁ」と言われたときでした。調べてみると、どちらも私にとっては好きなことを仕事にしているのと同時に、大変な狭き門であることを知りました。その後いろいろあって様似町とご縁があり、2年前に地域おこし協力隊になりました。そして、今年の春から学芸員に採用していただきました。まだまだ学芸員として未熟者ですが、私が主に行っている仕事を紹介させていただきます。

 私の勤務しているアポイ岳ジオパークビジターセンターはアポイ岳の麓にあり、主にアポイ岳や町内の自然等に関する情報を提供しています。アポイ岳は、国の特別天然記念物にもなっている高山植物群落のある山なのですが、温暖化が原因と思われるハイマツの拡大やシカの食害の影響で、高山植物群落の衰退が進んでいます。衰退を食い止める対策として、ハイマツの試験伐採やエゾシカの動態のモニタリング等が行われています。私が地域おこし協力隊になった2018年からは、ビジターセンターの近くにある栽培施設で、アポイ岳の希少植物の栽培試験を行っています。この栽培試験は、希少植物の生息域外保全と、環境教育への活用を目的としています。現在は14種のアポイ岳の希少植物を栽培しています。2018年の開始当初からは考えられないほど苗が増えました。栽培施設の希少植物のほとんどは、文化庁や北海道の許可を得てアポイ岳で採取した種子を播種して育てています。最初の年は、目的とする植物の種子がいつ頃採取できる状態になるのか分からないため、夏の間は週に2,3回アポイ岳に登っていました。種類によっては、果実が完熟すると種子がはじけ飛ぶタイプの植物もあるため、果実が割れる前に袋掛けするなど工夫が必要なものもあります。

アポイ岳の希少植物の苗

 種子の播種や植え替え、苗の大きさを測るといった作業は、地元のボランティアの方々と協力して行っています。植え替えに使う土を混ぜる作業や、栽培施設内にある築山の雑草除去作業は、ボランティアの方々の力を抜きにしては到底できません。私はここに就職するまで植物を育てたことはほとんどなかったため、日々発見の連続です。播種して2週間ほどで発芽する種類もあれば、翌年の春にようやく発芽する種類もあり、また、発芽した年に開花・結実までしてしまう種類もあれば、成長がとてもゆっくりな種類もあります。前年に、ハバチの幼虫にたくさん葉を食べられたアポイクワガタという植物は、翌年はほとんど食べられませんでした。何かしらの防御物質を出しているのかもしれません。

ボランティアの方々と協力して作業しています

 栽培施設内にある築山は、現在はまだアポイヤマブキショウマとアポイハハコのみが試験的に植えられています。いつか、他の12種の植物も築山に移植して、アポイ岳のミニ植物園を作り、山に登れない方にもアポイ岳の高山植物を楽しんでいただけるようになればいいなと思っています。昨年は、エゾコウゾリナを築山に移植してみたのですが、その年の夏には全て枯死してしまいました。エゾコウゾリナにとって、築山の土壌は合っていなかったのかもしれません。植物の栽培は必ずしも上手くいくとは限りませんが、どのやり方がその植物に合っているのかを試行錯誤しながら栽培手法を確立していくのは、大きなやりがいを感じます。また、将来はアポイ岳の高山植物群落の再生へつながるよう、思いを馳せています。

        <アポイ岳ジオパークビジターセンター 学芸員 水永優紀>