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学芸員の地位を向上させるためのしごと【コラムリレー07 第32回】

全国の博物館の職員数(『令和元年度日本の博物館総合調査報告書』(日本博物館協会)より

  

1.日本の学芸員はどうなっているか?

日本博物館協会による「日本の博物館総合調査」という報告書があります。2019年4月1日現在の、日本の博物館の実態を調査した統計です。

そのなかに、副館長以下の職員数を常勤/非常勤に分けて回答する調査項目があります。ここでいう「常勤」とは法律的な意味での常勤職員ではなく、「館において定められている勤務時間をフルに勤務する」人を指しており、非正規雇用の数を含んでいます。

調査によると、1館あたりの常勤の博物館職員数は平均6.36人。このうち、学芸系職員の数は2.48人で、2004年以後4回実施された調査でもっとも多くなっています。

いっぽうで、全国の「常勤の学芸系職員の約4分の1が有期雇用」という結果も出ています。

私は、「常勤職員の数が若干の回復傾向にあるとともに、雇用形態が有期雇用に転換してきているのが実態ではないか」と考えています。

有期雇用の職員しか配置していない博物館の場合、「博物館総合調査」へ回答を出していない可能性があり、さらに多くの有期雇用学芸員が存在するのではないかと思っています。

 

浦幌町教育委員会で公文書の決裁をとるために用いる起案票。正規職員である社会教育主事と異なり、司書と学芸員はフルタイム会計年度任用職員のため、職名すら表示されない。

  

2.なぜ学芸員の地位を向上させなければならないのか? 

学芸員は学術や資料の専門家であると同時に、博物館経営の担い手としても成長していかなければならない職です。博物館、さらには博物館を支える地域や行政などについても考えられる、プロフェッショナルな人材を養成していくことが大切です。

有期雇用や低賃金で学芸員を雇用し、自転車操業で博物館を回転させていては、そのようなことは困難です。一見うまくいっているようでも、長い目で見た場合、その博物館にとって良い結果にはならないでしょう。資料を未来に遺し伝える「長い目」が求められる博物館にとって、そこで働く学芸員に対してこそ「長い目」が必要なはずです。

いま、全国で不安定な身分で専門職に就いている人たちがたくさん存在します。特に、パートタイム会計年度任用職員として働く学芸員の生活は、手取り月収が13万円程度という方が多く、非常に厳しいものがあります。本来、非正規雇用の処遇を改善させるために導入された会計年度任用職員制度が、逆に生活を苦しくしている本末転倒な状況も、全国各地で発生しています。

   

3.学芸員の地位を向上させるために

学芸員の地域を向上させるためには、博物館を支える地域の人たちから、学芸員という職に対する信頼を得ることが必要です。まずは学芸員の職責をまっとうすることが大切です。

ですが同時に、自らの職責に見合った就労環境を求めていくことも重要です。私は帯広百年記念館にいた頃、嘱託職員の労働組合を通じて団体交渉にのぞみ、報酬額をアップさせました。いまの浦幌町立博物館では、地域の理解を得るため、博物館講座として「学芸員問題」をテーマに扱うこともあります。

ときには、日本の博物館政策という観点から、学芸員制度について、声を上げることも必要です。これまで博物館の業界では、「博物館」という「館」の充実をはかるための方策が取り組まれてきた反面、そこで働く「学芸員」の問題を置き去りにしてきたと私は考えています。図書館の世界が、司書職の地位向上に永年取り組んできたことと、非常に対照的です。

私は「学芸員」という職に誇りを持っています。その誇りを胸に、未来の学芸員たちが伸び伸びと仕事の出来る、良い環境を残していきたい。日常の博物館運営と共に、今後も学芸員問題に取り組んでいきたいと考えています。

  

浦幌町立博物館 学芸員(フルタイム会計年度任用職員) 持田誠