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地質や岩石の野外調査で何のために使うの…? ちょっと変わった「テーピングテープ」の使い方【コラムリレー06 第34回】

私がよく行なう地質や岩石の野外調査に必携の道具のいくつかが、すでにひみつ道具として登場していますので、今回は私が少々本来とは違う使い方をしている道具を紹介します。

それは「テーピングテープ」です。

登山などで野外へ出かけるときに携帯することはよくあると思いますが、野外調査にも携帯すると便利です。本来の使い方である、捻挫などのケガの予防やケガをしてしまったときの応急処置に用いるほかにも、ザックなどの携帯している他の道具の補強や、破損したときなどの応急的な修繕に用いることができ、万が一のときにもたいへん有用ですが、今回紹介する使い方は、試料のラベルとして使用することです。

地質や岩石など分野の違いに関わらず、野外での試料採取で最も重要なことは、「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」採取したのかを記録することです。これらの情報が欠けると、試料として扱えなくなるので、情報を失わないようにラベルとして付け加えます。試料採取から帰ってきたあと、記憶している情報を加える方もいますが、採取した現場で付け加える方が多いと思います。

私は最近では、テーピングテープにそれらの情報を油性マジックペンで書き、書いた部分のテープを切って岩石試料に貼り付けています(貼り付けてから書かないのがコツです)。これは、野外調査や試料採取での私の体験から試しているものです。

写真1.テーピングテープのラベルとしての使用例: 左上のラベルを例として、2019.8.13は日付(2019年8月13日)、A003は記号(採取した地点と順番など)、Microdiorite~…は岩石名または試料名、岩内岳は場所、加えて、同行者の名前をそれぞれ記載しています(採取者は本人のため省略)。「いつ」「どこで」「だれが」「なにを」採取したのかを記載しています。

例えば、地質や岩石の分野では、岩石ハンマーで整形した試料に任意の番号を与え、その番号に対応させて野帳や地形図などに情報を記録し、調査から戻った後、最終的に情報の整理を行なうのがよくある方法です。岩石試料が大きくてサンプル袋に収まらないときなどは、岩石の試料を新聞紙などでくるみ、それに情報を書き込み、そのままザックへ入れて移動します。調査の範囲が広いときなどは、情報は記録して、試料はひとまず置いておき、帰りにまとめて回収する(回収のために何往復もすることも)など、いろいろな工夫をして試料採取は行なわれます。

写真2.試料採取の方法の一例:①新聞紙で試料を包み、新聞紙に情報を記載しているもの。撮影用に試料の一部を露出しました。②書き込みスペースのあるサンプル袋(冷凍保存バッグ)に情報を記載しているもの。③チャックつきの袋にサンプルを入れ、情報を書き込んだメモ紙を同梱したもの。メモ用紙(④)のほか予め印刷したラベル(⑤)を用いたり、サンプル袋に直接情報を書き込むこともあります。それぞれに、日付と記号、岩石名または試料名、場所などを記載しています(採取者は本人のため省略)。

ところが、野外の調査や試料採取ではさまざまなトラブルが起こります。

自分の体験のうち、情報の逸失の関係では、険しい山や藪の中の移動で、野帳や地形図などの調査道具の入ったかばんを紛失してしまったことや、長時間の川の中の移動で、新聞紙に情報を書き込んだ試料が入ったザックの内部まで浸水させてしまい、新聞紙がグシャグシャになって情報を読めなくなったことなど、いろいろな失敗をしています。

とくに、情報を記録した野帳や地形図を紛失すると被害は甚大で、再調査を行なう必要もありますが、新聞紙などの素材が原因の情報の逸失については、テーピングテープに油性マジックで情報を記載し、しっかり貼り付けておけば、水にも耐え、サンプル袋に収まらない大きさの試料でも、ある程度の情報の逸失を防ぐことができます。また、誤って砕いた試料や元来もろい試料はテープを巻いて固定するなどすれば、ある程度試料の散逸を防ぐこともできます。

ビニールテープや布テープなど他のものでもよさそうですが、これも経験上、テーピングテープは、その材質や伸張性によるのかもしれませんが、とくに粘着性が高く、凹凸があったり表面がざらついていたりする岩石試料などにもしっかり貼り付けやすいように思いますし、テープ表面に書いた文字も、水や摩擦では消えにくいように思います。一方で、強い粘着力は、テープを剥がすときなどに試料を破損する恐れもあり、今回のような使用が適さない試料もありますので、使用には十分な注意が必要です。

今回はアイデアの一例ですので、他の道具でもいろいろなことを試していただければと思います。

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