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虫かごのマメちしき【コラムリレー06 第27回】

道具はアイデアの結晶です。「アイデアというのは、複数の問題をいっぺんに解決すること」。この言葉は任天堂の故・岩田聡さんによるもので、わたしが野生動物を専門とする学芸員としてはたらく上で大切にしている言葉のひとつです。

野生動物の中で最も身近なもののひとつが、昆虫です。彼らを観察するには、ちょっとしたコツが必要です。彼らは動き回るし、鋭い爪や毒を持つものもいます。どうしたら、多くの人にじっくり安全に昆虫を観察してもらえるでしょうか?そんな問題を少しだけ解決してくれるのが、今回ご紹介するわたしのひみつ道具「キレイマメ(素焼き黒豆)の容器」です。

キレイマメの容器。中身の黒豆はたいへん美味しかったです。

この容器はわたしにとって理想的な「観察用虫かご」です。虫かごといえば青や緑のプラスチック製のものが一般的ですが、欠点があります。それは壁がアミ目状であること。捕まえた昆虫を観察しようにも、目を凝らしてアミの隙間からわずかに見える体の一部を見る、といったことになりがちです。また、アミの隙間からは昆虫のツメや針が飛び出してくることもあります。扉は透明なので、扉越しに中を覗くことも出来ますが、見る角度が限定されてしまいます。わたしが小さい頃は、代わりにコーヒーの空き瓶を使っていました。しかし空き瓶は子供にとっては重く、口が大きいので入れた昆虫がよく逃げてしまいました。透明で、持ち運びやすくて、適度な大きさの入口を持つ夢のような容器はないものか…。ありました。それは、十勝にありました。豆の名産地・本別町が「大地から健康美人への贈り物」と銘打って世に送り出した商品、キレイマメ。その容器です。

【利点その1 透明なカベ】

 ざらつきのない透明な壁は昆虫との接触を防ぎつつ、前後左右からの昆虫の観察を可能にします。もうアミの隙間に目を凝らす必要はありません。ハナバチたちがあつめて脚にたくわえた花粉ダンゴも、全身を丸く包むふわふわの毛も、すべてが目に飛び込んできます。「安全でよく見える」ことは、昆虫が苦手な方々の不安も払拭します。誰だって、危険と言われているもの、はっきりと姿が見えないものは怖いものです。「安全でよく見える」容器は、こうした昆虫への恐怖を和らげてくれます。虫が怖くてお母さんにしがみついていたお子さんに、マルハナバチをこの容器に入れて「大丈夫だよ、ほら。」と見せると、目を丸くして寄ってきて、わたしから容器を取り上げてしまったこともあります。この容器は見た目以上にすごい力を持っています。

リビングにて、キレイマメの容器に捕獲されたハナバチのなかま。自宅に侵入した昆虫の捕獲にも使えます。

【利点その2 携帯性】

野外で使う道具を選ぶポイントとして、外せないのが「携帯性」。キレイマメはお酒やお茶のおつまみ向けの商品なので小さな容器が採用されており、尻ポケットに納まります。休日に公園で自然観察をするときは、この容器をポケットに入れていくだけで、草花や木々が様々な昆虫たちの生活の場になっていることが見えてきます。

【利点その3 大きくも小さくもない口】

「透明で軽い容器」自体は数多くありますが、口が大きすぎるもの小さすぎるものでは昆虫の出し入れに困ります。この容器の入口は直径26mmで、コクワガタくらいまでなら入る大きさです。チョウ目やトンボ目、体の大きな甲虫目・カメムシ目以外なら入ります。特定の昆虫を狙わずに出かけるなら、この容器で十分カバーできるのです。

近年は自然体験が自然環境の保全意識を高め(※1)、さらには健康増進にも良いことが分かってきました(※2)。キレイマメの容器は昆虫を観察するハードルをググっと下げ、自然観察を楽しみやすくしてくれます。食べて良し、使って良し。ぜひ探してみてください。

参考文献

※1 Tsuchiya, K., Aoyagi, M., Okuro, T., & Takeuchi, K. (2014). The potential of, and threat to, the transfer of ecological knowledge in urban areas: the case of community-based woodland management in Tokyo, Japan. Ecology and Society, 19(2).

※2 Keniger, L. E., Gaston, K. J., Irvine, K. N., & Fuller, R. A. (2013). What are the benefits of interacting with nature?. International journal of environmental research and public health, 10(3), 913-935.

<帯広百年記念館 学芸調査員 大熊 勳>