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鳥の目!? カイトフォト【コラムリレー06 第25回】

「空を自由に飛びたいな♪」というのは今も昔も人類の夢なのでしょう。 空から見た景色には心躍るものがありますし、地形や地表のようすを広い視野で俯瞰することができます。博物館などの展示でも山や湖といった対象物の全景を見せるために航空機から撮った映像が使われることがあります。

最近は高性能なドローンが比較的リーズナブルに手に入るようになったため、さまざまな分野で空撮が行われるようになってきました。野生動物の研究でも個体数のカウントや人が近づけない生息地の観察などにドローンが利用され始めています。そんな便利な道具ですが、バッテリーが長時間はもたない、強風では飛ばせない、規制が厳しい、といった問題もあります。規制の強化は世界的な流れのようで、今年の10月に渡り鳥の調査のためにロシアを訪れた際はドローンの持ち込みの許可が下りませんでした。 そこで今回はドローンではなく、凧を使った空撮の方法をご紹介します。

アニワ湾(ロシア、サハリン州)

上の写真はハクチョウやカモの渡りの中継地であるサハリン南部のアニワ湾で撮影したものです。河口付近に広がる干潟やハンターがカモを撃つための待ち伏せ小屋のようすが、鳥の目線から見てとれます。 この写真が凧から撮られた証拠ともいえる糸が、写真の右端に写りこんでいます。糸を下へとたどっていくと… 凧あげをしているのが私です(カメラの角度を調整すれば糸や撮影者は写りません)。

凧を使った空撮はかなりマイナーではありますが、カイトフォトと呼ばれ世界中に愛好家がいるようです。 カイトフォトの利点はなんといっても手軽なことです。建物や電線などには要注意ですが、凧あげが規制されている場所はそれほど多くありません(凧禁止の場所は当然ながらドローン禁止です)。動力源は風でバッテリー切れとは無縁ですし、凧の形状を工夫すればある程度の強風にも耐えられます。逆にまったく風がないと飛びませんが、走ったり車で牽引したりして無理矢理あげることはできます。

カイトフォトの道具一式

カイトフォトに必要な道具は、凧、糸と糸巻き、そしてカメラです。 凧はそれなりの大きさでなくてはカメラを持ち上げることができません。最近は小型軽量のカメラが出回っていますが、それでも吊り下げ用の金具などを含めると数百gにはなってしまうので、面積が畳一枚分以上の凧でないと力不足です。私の凧は古いテントの布地で自作したもので、そよ風でも安定したパワーが出るように試行錯誤した結果、幅2.3mのマンタ型に落ち着きました。糸は引っ張り強度が50kg以上のものを200mくらい用意します。これで100mを超える高さまで凧をあげることができます。長い糸はうっかり絡ませてしまうと大変ですし、巻き取りにはかなり力がいるため、リール式の糸巻きがあると便利です。カメラ選びは性能と重さの相談になりますが、私は軽くて頑丈なスポーツ用のアクションカメラを使っています。地表付近の風は弱くて乱れがちなので、まず凧を10mほどあげて安定した風をとらえてから糸の途中にカメラを取り付けるのが撮影時のコツです。

マンタカイト1号とカメラ

カイトフォトでは風の向きと強さ、太陽の位置、地形などを読んで凧を飛ばします。そのため、撮影前には方位磁針を片手に地図とにらめっこすることになり意外に頭をつかうのですが、そこが面白いところでもあります。 みなさんも調査でなくても趣味として挑戦してみてはどうでしょうか。ただし、カイトフォトは規制が少ないとはいえ重さのあるカメラを上空にあげるので安全第一で! 状況によっては飛ばさない判断が大切です。

<北海道博物館 学芸員 表渓太>