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新種アンモナイトは「ゆるふわパ~マ」!? 【コラムリレー第21回】

 

2017年7月、三笠市と羽幌町から見つかった新種アンモナイト「ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム (Eubostrychoceras valdelaxum)(図1)が発表されました(Aiba et al., 2017)。新種のアンモナイトはいわゆる異常巻アンモナイトの仲間で、渦巻き状に巻いた一般的なアンモナイトとはかなり異なった形をしています。

今回は、新種の発見により新たに推定されたこのグループの進化と、新種名の由来についてお話します。

図1:新種アンモナイト「ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム」。

新種の発見から推定された新しい「進化」

新種の標本は三笠市と羽幌町(図2)に分布している中生代白亜紀の「カンパニアン期」と呼ばれる今から8360万年ほど前の海の地層から見つかりました。

図2:新種アンモナイトが見つかった三笠市と羽幌町の場所

「ユーボストリコセラス」は、バネのような螺旋塔状の殻を持ち、殻表面にトゲやイボなどの突起を持たない異常巻アンモナイトです。このグループは世界中から約20種、北海道からは5種が知られていますが、新種となった標本は、これまで報告されていたどの種よりも緩く引き伸ばされたような形をしています。この特徴こそが、今回見つかった標本を新種として考えた根拠です。

一方で、殻表面のしわの特徴だけに注目して新種と他の種類を比較してみると、新種の殻表面のしわは、チューロニアン期(約9390万~8980万年前)の地層から産出する「ユーボストリコセラス・ジャポニカム」(図3A)と、もっともよく似ていることがわかりました。


図3:これまでに北海道から報告されている5種のユーボストリコセラス。

ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサムとユーボストリコセラス・ジャポニカムの殻表面のしわの類似より、これらが近縁な関係にあり、より新しい時代から見つかったユーボストリコセラス・ヴァルデラクサムは、ユーボストリコセラス・ジャポニカムの子孫種であることが推測されました(図4)。

図4:推定されたユーボストリコセラスの進化。

ユーボストリコセラスは北海道ではチューロニアン期やコニアシアン期の地層からの産出が多い一方で、より新しい時代のカンパニアン期の地層からは産出報告がこれまでありませんでした。今回、カンパニアン期の地層から新種が発見されたことにより、ユーボストリコセラス・ジャポニカムが「のびのび進化」し、姿を変えてカンパニアン期まで生き延びていたらしいことが明らかになったわけです(図4)。

しかし、今回提案した進化の新説には、大きな「穴」があります。それは、系統関係が推定された2種の間にある約620万年間もの空白期間です。この空白期間、彼らはどこに、どのような姿で存在していたのでしょうか??この空白期間(つまり、“ミッシングリング”)を埋めるべく、今日も山を歩き、地層を調べ続けています。

 

新種名の由来

「ユーボストリコセラス (Eubostrychoceras)」という属名は、ラテン語で「巻き髪アンモナイト」というような意味です。おそらく、図3Cのような螺旋塔状の形が、女性の(きつめに巻いた)パーマヘアをイメージさせ、このように名付けられたのでしょう。今回の新種は、これまで見つかっていたすべての種よりも緩い形をしています。しかも”超”緩い形です。そこで、私たちは「とても緩い」という意味のラテン語”valde-laxum”を新種の種小名に与えることにしました。したがって、新種名は、「とても緩い 巻き髪アンモナイト」という意味の「ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム (Eubostrychoceras valdelaxum)」となりました。

ところで、「とても緩い巻き髪」を俗に「ゆるふわパーマ」と言ったりしますよね。なので、「ユーボストリコセラス・ヴァルデラクサム」を現代風に訳すなら、「ゆるふわパーマのアンモナイト」といったところでしょうか(図5)。


図5:「ゆるふわパーマ」の女の子とアンモナイト。

現在、三笠市立博物館で開催中の特別展で新種の実物標本を、北海道博物館と羽幌町立中央公民館で新種のレプリカ標本を展示中です。是非、この機会にご覧ください。

 

<三笠市立博物館 主任研究員・学芸員 相場大佑>

【参考文献】

Aiba D., Yamato H., Kurihara K., and Karasawa T., 2017: A new species of Eubostrychoceras (Ammonoidea, Nostoceratidae) from the lower Campanian in the northwestern Pacific realm. Paleontological Research, vol. 21, no. 3, p. 255–264.