遺跡に残りにくい「木の器」
「縄文時代の器」と言えば、粘土を焼いて作った縄文土器や石皿などがよく知られています。しかし、木で作った「木の器」は、あまり知られていません。なぜなら、木は土中に埋もれている間に腐ってしまい、遺跡に残りにくいからです。
石狩市花川、発寒川のほとりに位置する石狩紅葉山49号遺跡では、湿地であったため、縄文時代中期(約4000年前)の「木の器」が形を留めていくつも出土しました。この時期の「木の器」は、全国的にみても希少な出土品といえます。
「器」いろいろ
この遺跡から出土した「木の器」をみると、舟形容器が多くみられます。容器の形が細身のものや楕円形をしていることから、そのように呼ばれています。大きさは、長さが30㎝前後から1mを超えるものまでがあります。
容器に柄の付いた柄付容器も出土しました。液体などを掬うことができます。容器と柄の部分を一つの木材を削って作りあげているのが特徴です。器の部分をみると、深いものと浅いものとがあります。また、柄の部分に溝の一周するものがあり、そこに紐を巻いて吊るしていたのかもしれません。
これらのほかに、漆塗容器や樹皮製容器も出土しました。
木の種類
石狩紅葉山49号遺跡の器に用いられた木の種類(樹種)を調べると、とくにハリギリ(別名:セン)が多く用いられていました。この遺跡から出土した木製品では、トネリコ属(ヤチダモなど)が最も多く796点確認されていますが、容器ではわずか3点に留まります。逆に、ハリギリは遺跡全体で15点と少ないですが、そのうち11点が容器に用いられています。このことから、容器を製作する際に、木の種類を選んでいたものと考えられます。
出土品を見てみよう、復元品で触ってみよう
ただいま、いしかり砂丘の風資料館では、テーマ展「縄文の木の器」を開催中です。これまで展示未公開であった出土品を含めて紹介しています。これらの「木の器」を観察すると、細部にわたって丹念に作られており、それらが大小の石斧などで加工されていたことを考えると、製作技術に驚かされます。
また、今回の展示のなかでは、実寸大の復元品を手に取れるコーナーも設けています。木のぬくもりを体感しながら、木取りや製作工程を考えることができます。ぜひご覧ください!(10月7日まで、火曜休館。入館料300円、中学生以下無料。)
おわりに
遺跡に残りにくい木の道具の中から、今回は石狩紅葉山49号遺跡から出土した「木の器」について紹介しました。これらの出土品は、当時の人々が木を利用した、ものづくりの知恵や技を、私たちに教えてくれる貴重な資料です。モノ言わぬ遺物「木の器」からのメッセージ―今まであまり知られてこなかった縄文文化の一面が見えてくるかもしれません。
<いしかり砂丘の風資料館 荒山千恵>
来週の投稿は、根室市歴史と自然の資料館の外山雅大さんです。お楽しみに!