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ニホンザリガニが大変だー!! ー外来生物の拡散による影響ー 【コラムリレー第5回】

zariganiニホンザリガニ Cambaroides japonicus (De Haan1841)

北海道には、日本固有種のニホンザリガニ(絶滅危惧種II類(VU))が生息しています。世界中探しても北海道と青森県とその県境にしか生息していない希少な生物です。かつては私たちの身近な森や林で普通に見られ、アイヌの人たちはテクンペコルカムイ(手甲を持つ神様)と呼び、なじみの生き物でもありました。私たちざりがに探偵団が調べたところ(ダーウィンが来た 生き物新伝説 154回 北の森に生きるニホンザリガニ cgi2.nhk.or.jp/darwin/broadcasting/detail.cgi?sp=p154…)、 このザリガニの棲息には広葉樹林の冷たいきれいな沢や、わき水があるような場所が欠かせないことが判ってきました。しかし、針葉樹の植林や住宅開発などにより、生息地が破壊されたことによって、現在では希少種になってしまいました。

アイヌの人たちはざりがにを食用としたり、漆かぶれの薬として使っていたようですが、外国でもざりがにを食用としている地域があります。スウェーデンでは毎年夏、クレフトフィーヴァ(Kra¨ftskiva)と言うザリガニを食べるお祭りがあり、当別町にあるスウェーデン交流センターでも、毎年そのお祭りが行われています。ざりがに探偵団としては、クレフトフィーヴァとやらに是非一度参加し、食べられているザリガニに、是非ともお目にかかりたい・食べて見たいと思い参加してみました。

会場に着くと、パーティーを盛り上げる「月の男」のランタンやザリガニの切り紙細工などの飾り付けがされています。受付で参加費500円を払うと、ざりに帽子、前掛け、ナプキンの3点セットが渡されました。すべてザリガニの絵柄が描かれています。ザリガニパーティーには必須のアイテムとのこと。
OLYMPUS DIGITAL CAMERA当別町スウェ−デン交流センターでのクレフトフィーヴァの様子

どんなザリガニが出てくるのかと楽しみにしていたところ、出てきたのはなんとアメリカザリガニ・・・。本場アメリカからの直輸入とのこと。食べるのは初めてです。そのほか当別で採れた野菜やスイカ、飲み物も沢山あります。これにアクアビットがあれば言うことナシですが、車で来ているのでアルコールっけはなし。ちょっと残念です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERAOLYMPUS DIGITAL CAMERA

本場スウェーデンでは本来ノーブルクローフィッシュ(学名:Astacus astacus)と言う在来ザリガニを、食べるらしいのですが、在来種が減少してしまったらしく、最近は中国・アメリカ・トルコからのアメリカザリガニやウチダザリガニの冷凍物の輸入が多いようです。減少の原因は、アメリカから養殖用にもたらされたウチダザリガニです。このザリガニくっついて一緒に持ち込まれた伝染病ザリガニペスト(=アファノマイケス症)に、在来種のノーブルクローフィッシュが感染し減少したらしいのです。

uchida旭川市江丹別川で捕獲されたされた巨大なウチダザリガニ

ザリガニペスト

実はこの現象は、スウェーデンのみならずヨーロッパの各国においても、在来ザリガニの減少や絶滅という大きな問題を引き起こしました。Ackefors(1989)によれば、ザリガニペストは、ヨーロッパに1860年にアメリカより輸入されたウチダザリガニと一緒にイタリアにもたらされたのが最初と言います。その後、ヨーロッパ各国にウチダザリガニが輸入されることによって、次々に在来ザリガニにザリガニペストを感染させていきました。

pest1ヨ−ロッパにおけるザリガニペストの伝搬

ニホンザリガニの生息環境が悪化する中、今度はこの病気の分布拡大が追い討ちをかけたのです。 ニホンザリガニはこの病気に全く抵抗力がなく、ウチダザリガニが分布拡大することで各地のこの病気がもたらされ、絶滅に追い込まれているらしいのです。例えば屈斜路湖では1989年以降ニホンザリガニの生息が確認されず、ウチダザリガニが蔓延しています。

ウチダザリガニと近縁種のタンカイザリガニは、大正末から昭和初期に北アメリカのコロンビア川から食用のために農林省水産局(当時)によって。各県の水産試験場に導入されました。しかし暖地での増殖は失敗したところが多く、滋賀県(淡海池)、石川県(個人の養殖池)と北海道(摩周湖)の3カ所で成功しました。摩周湖には476尾が放流されましたが、その後あちこち持ち出され、現在北海道東部、北部や中央部にも生息地が拡散してしまいました。さらには再び本州にも持ち出され、福島県磐梯朝日国立公園の湖沼、千葉県利根川、福井県九頭竜ダム、長野県明科などでも確認されています。

ウチダ分布北海道におけるウチダザリガニの分布状況

北海道の冷涼な気候は原産地コロンビア川とよく似ていて、ウチダザリガニの生息に適しています。北海道の河川や湖沼には、エゾサンショウウオやエゾアカガエルなどの両生類、エゾホトケドジョウ、トミヨ類やヤチウグイ等の魚類、マルタニシ、モノアラガイやヒラマキガイ等の貝類、多くの水生昆虫、水生植物など、北海道独自の在来生物相があります。ウチダザリガニは沢山の餌を必要とすることから、これらを捕食することで淡水生態系の食物連鎖に大きな影響を与えます。

このようにウチダザリガニは希少種のニホンザリガニだけでなく、多くの在来生物相に重大な悪影響を及ぼすことから、外来生物法によって特定外来生物に指定されました。特定外来生物に指定された生物は、飼養、栽培、保管、運搬、輸入などが規制されています。違反すると罰金や禁固刑が科せられるようになっています。

www.env.go.jp/nature/intro/1outline/law.html…

私たちの身近な自然にはニホンザリガニを初め、多くのその土地固有の生物が棲んでいます。それらは、北海道や日本列島が形成する何万年〜何百万年という長い地史的な年月の中で、生物自身の力で分布を広げ、生息地を拡大し定着してきました。その土地固有の生物相と言うのは、私たちの大地がどのように生成し、生物がどのように進化して来たのかを示す重要な生き証人でもあります。

しかし私たち人間が、私たちの都合でその生息環境を破壊し外来生物を導入することで、ニホンザリガニをはじめとするその土地固有の生物が、脅かされています。非常に長い年月かかって形成されて来たその地域固有の生物多様性を、単に人間の欲得と言う都合だけで破壊しまってよいはずがありません。

 

<ざりがに探偵団主宰・フリーランスキュレーター 旭川大学地域研究所特別研究員 斎藤和範>

 

次回は、奥尻町教育委員会の稲垣さんの投稿です。ご期待ください!