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黒曜石とトカチ石【コラムリレー第43回】

【黒曜石】  写真:伊藤建夫氏

白滝ジオパーク・白滝エリアの特色は、何といっても日本最大の黒曜石産地「赤石山」と旧石器時代の石器製作遺跡である白滝遺跡群です。当館の展示と体験も黒曜石が中心となっています。今回はこの「黒曜石」の名前にまつわるお話しをご紹介します。

「黒曜石」という言葉の登場は江戸時代にまで遡ります。江戸時代の本草学者である木内石亭(1724~1808)が享和元(1801)年に日本各地の奇岩をまとめた『雲根志』三編という書物に「黒曜石」の記述が確認できます。「曜」は光り輝くという意味があるので「黒く光り輝く石」という意味が込められていたと推測できます。

その後、明治11(1878)年に東京大学理学部助教授の和田維四郎(1856~1920)が日本最初の鉱物誌である『本邦金石畧誌』の中で「Obsidian」の訳語として「黒曜石」を採用したことで一般的にも普及しました。なお、黒曜石の「曜」を「耀」または「燿」と表記する場合もあります。ともに意味は同じですが、黒曜石の光り輝くイメージに字形の語感が合うために使用されています。

また、北海道では「黒曜石」よりも「トカチ石」と呼ばれることが多いと思います。黒曜石はアイヌ語でアンチ(アンジ)と呼びますが、古文書に登場する北海道の黒曜石の呼称はアシ、黒玉石、アンチ、モンベツ石、トカチ石、産名石、黒水晶などがあります。

弘化3(1846)年の松浦武四郎の『校訂 蝦夷日誌』二編には「此辺皆石の裂目を見るニ黒水晶の如し。(中略)扨此石此辺りニ而はモンベツ石と云、東部に而はトカチ石と云也。(中略)其石東西とも其土地の名をもて号るもの也」とありますので同じ黒曜石でも湧別川流域では「モンベツ石」、十勝川流域では「トカチ石」と呼ばれていたことがわかります。やがて、明治期に入ると十勝産黒曜石に細工した工芸品とともに北海道に「トカチ石」の名前が定着したとみられます。

ちなみに現在の岩石学では鉱物を「石」、岩石を「岩」と区別しています。このため溶岩が急冷してできた黒曜石は火山岩に分類されるため、正式な名称は「黒曜岩」となります。あなたはどの名前で呼んでいますか?

<遠軽町埋蔵文化財センター 学芸員 松村愉文>