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拓本の決め手は手作りの道具【コラムリレー06 第14回】

 みなさんは、拓本をご存知ですか?拓本とは、石碑に書かれた文字や、縄文土器の文様など、資料の表面に刻まれた文字や文様を、墨を使って紙に写しとる技法のことをいいます。

 例えば、コインに紙を被せて上から芯のやわらかい鉛筆でこすって模様を写し取って遊んだ経験はありませんか?これも、拓本の一種です。乾いた紙を使うので、「乾拓(かんたく)法」といいます。一方、湿らせた紙を資料に貼り付けて文様を写し取る方法があります。これを「湿拓(しったく)法」といいます。書道の教科書や考古学の本で目にしたことある方も多いかと思います。資料を傷つける心配が少なく、微細な部分まで正確に記録することができる湿拓法は、考古学の分野において、欠かすことのできない調査のテクニックのひとつです。特に、風化が著しい石碑の碑文を解読したり、目に見えにくい文様を観察するために活躍しています。

 先日、この夏休みを利用して、町内の小学生に縄文土器の拓本を体験してもらいました。ここでは、その時の写真をもとに、湿拓法の作り方を説明しながら、道具についても紹介したいと思います。

 まず、土器片を画仙紙(がせんし)でくるみ、その上から水を含ませた布や脱脂綿でおさえて紙を表面の凹凸に密着させます。この時、画仙紙と土器の間に空気が入り込まないようしっかりくいこませることがポイントです。少し難しい作業ですが、画仙紙は柔軟性があり破れにくいので、慣れてくると綺麗に密着させることが出来るようになります。 画仙紙が張り付いたら、紙の表面がうっすら白くなるくらい乾燥させます。

土器に画仙紙を密着させます。

 画仙紙が程よく乾いたら、いよいよ墨をつけます。 墨をつけるのに、タンポと呼ばれる道具を使います。布で綿をくるんで、てるてる坊主状にした道具です。タンポの頭に墨をつけたら、タンポ同士をこすり合わせて墨をなじませたあと、ぽんぽんと押し当てるように墨をつけていきます。

 タンポは、大きさの違うものをいくつか用意しておいて、文様の大きさによって使い分けてもらいました。一番小さいタンポは親指の先ほどのサイズです。それでも対応できない場合は、綿棒を使います。

 タンポは、拓本の仕上がりの決め手になる道具です。市販のものもありますが、手作りのタンポを使うことが多いです。タンポの大きさや、綿の詰め具合で墨の付き方が違うので、好みの大きさ・好みの堅さの手作りマイタンポがあると作業がはかどります。凹凸の激しい土器を、ムラなく写すのはなかなか難しいのですが、白い画仙紙にくっきりとした文様が広がる瞬間は気持ちがいいものです。

大小さまざまなタンポを使っています。

 文様がしっかり浮かびあがったら、画仙紙を土器片から剥がし、雑誌や新聞に挟んで乾燥させれば完成です。参加者全員がはじめての拓本でしたが、とてもよく採れていると思います。

上手に採れました!

 拓本は、同じ資料でも、採る人や道具が違えば、また違った雰囲気の作品が完成します。それぞれの違いを楽しみつつも、自分の採った拓本を見比べては、よりよい拓本を目指して試行錯誤しています。

(福島町教育委員会 鈴木 志穂)