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むかわ町で初めての恐竜発掘! 【コラムリレー第36回】

はじめに

2013年秋、穂別で初めてとなる恐竜化石の発掘調査が行われました。恐竜化石はこれまで北海道内で3個体が発見されていますが、全てが転石として発見されているため、現地から発掘されたのは今回が初めてとなります。

その成果については現在整理中ですので、今後の公表をお待ち下さい。ここではどのような体制でどのように調査が行われたのか紹介します。

 

調査体制  むかわ町立穂別博物館(職員)、北海道大学・北海道大学総合博物館(小林快次准教授、学部生、院生、大学ボランティアほか)、常時10人前後、のべ作業人数約270人

作業申請先  北海道(道有林)

作業日数  実質28日間(2013年9月2日から10月5日)

産出層  函淵層(中生代白亜紀後期、約7200万年前)

種類等  鳥盤目 鳥脚亜目 ハドロサウルス科、全長は8mほどと推定

主な産出部位  尾椎、後足の骨、胴椎、肋骨、歯(全身骨格の3割程度)

 

<参考資料>

プレスリリース資料(北海道大学HP):

www.hokudai.ac.jp/news/130717_pr_museum.pdf…

ホッピーだより(博物館広報紙):

www.town.mukawa.lg.jp/secure/3641/hoppyno.345.pdf…

www.town.mukawa.lg.jp/secure/3641/hoppyno.348.pdf…

 

調査の概要

 

①2003年に穂別町内(当時)にて発見された脊椎動物化石は、穂別地区で初めての恐竜化石であることが小林快次北海道大学准教授の調査で判明しました。残りの化石が現地に埋没していることが分かったので、追加の発掘調査を行うことになりました。(写真1)

写真1 2013年7月17日の報道会見。右が小林准教授。

写真1 2013年7月17日の報道会見。右が小林准教授。

 

②公用車ほか3台に分乗して、毎朝7:30に穂別博物館を出発、作業を終えて17:30頃に戻って来ました。休みの日は毎週日曜日と、雨天で作業のできない日でした。

発掘現場までの約2kmの林道は、前半は私有地、後半は道有林で、幾重にも施錠されています。

現場は斜面の中腹で、林道からの高さは十数mほどでした。そのため、まずは斜面を削り、昇降路を作成しました。(写真2)

写真2 対岸から見た発掘現場。

写真2 対岸から見た発掘現場。

 

③埋没が確認された一点の化石を目印にして、現地における地層面の向き(走向・傾斜)から恐竜化石の埋没方向を推測しました。地層面(当時の海底面)が約80度まで傾いてしまっているため、作業はほぼ垂直の壁に向かって行うこととなりました。(写真3)

発掘現場の全景。垂直の壁面に対して作業を進めている。

写真3 発掘現場の全景。垂直の壁面に対して作業を進めている。

 

④重機(バックホウ)を使って周囲の岩石を大まかに取り除いた後、電動ピック(削岩機)やスコップ、ハンマーとタガネ、デンタルピックやハケなどを使用して、次第に慎重に作業を進めて行きます。化石は見つけ次第回収するのではなく、まずは分布状況を明らかにします。

岩石の中から現れた化石は、アクリル樹脂(パラロイドB-72)や瞬間接着剤などで補強しました。(写真4)

ハンマーとタガネによる岩石の除去。

写真4 ハンマーとタガネによる岩石の除去。

 

⑤骨化石が見えたら、その形状が分かるように周囲の岩石を取り除きます。化石がノジュール(団塊)という石灰質の硬質な岩石に包まれている場合は良い状態で保存されていますが、そうではなく母岩中に直接に包含されている場合は脆弱なため、破損しないように慎重な作業が必要となります。(写真5)

写真5 デンタルピックや針による慎重な作業。

写真5 デンタルピックや針による慎重な作業。

 

⑥恐竜の骨化石です。骨は内部がスポンジ状の海綿質で、その周囲を硬質な緻密室が取り囲むという二重構造をしています。写真はノジュールに包まれていない場合の産状です。(写真6)

写真6 恐竜化石の断面。内部は多孔質の海綿質、外周は密な緻密質。

写真6 恐竜化石の断面。内部は多孔質の海綿質、外周は密な緻密質。

 

⑦調査では、恐竜化石と合わせて二枚貝、巻貝、アンモナイトなどが多数発見されました。それらは1点ずつ固有の番号が付され、リストに整理されました。(写真7)

写真7 採集標本の整理。

写真7 採集標本の整理。

 

⑧一部の骨化石については現地で分離して回収しましたが、多くの場合は脆弱なために、基本的に周囲の岩石とともに回収しました。一定の大きさに切り揃えた麻布を水に溶いた石膏に浸し、巻き付けて石膏ジャケットを作成しました(いわゆるギブスです)。麻布は2重から3重になるように重ね合わせました。(写真8)

写真8 石膏ジャケットの作成。

写真8 石膏ジャケットの作成。

 

⑨中央の白い塊が石膏ジャケットです。骨化石の分布を確認しながら、その境目や岩石の亀裂に沿ってジャケットを作成しました。そのため、大きさはそれぞれ異なり、大きなものでは1mを超えました。今回の調査では、全部で20個以上のジャケットを作成しました。(写真9)

写真9 石膏ジャケットの一例。

写真9 石膏ジャケットの一例。

 

⑩大きなジャケットは人力では動かせないため、重機で吊り上げてトラックへ積み込みました。こうして回収された石膏ジャケットは博物館収蔵庫に運び込まれました。今後はジャケットを取り外して、岩石の中から骨化石を取り出す、化石クリーニングと呼ばれる作業を行います。骨の形が明らかになることで、その後の研究や展示につながります。(写真10)

写真10 重機による石膏ジャケットの回収。

写真10 重機による石膏ジャケットの回収。

 <むかわ町立穂別博物館 櫻井和彦>

 

次回は北海道開拓記念館の圓谷昂史さんです。お楽しみに!