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湿地の文化的価値【コラムリレー第2回】

 根室市と別海町にまたがる風蓮湖は、ラムサール条約登録湿地となっており、約310種の鳥類が確認されている。近年は野鳥観察小屋(ハイド)の整備も進み、イギリスやオランダといった海外からもバーダーが詰めかけるなど、当地の自然の魅力が世界中に発信されつつある。

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  風蓮湖や隣接する温根沼は干潮時に広大な干潟が顔を出し、そこはアサリ、ウバガイ(ホッキ)、オオノガイの好漁場である。中でも、オオノガイ漁はこの地方独特の漁業である。オオノガイを漁獲対象としている地域は、管見にふれた限りでは京都府の丹後地方に見られるくらいで全国的に稀である。
 今から7年ほど前に、このオオノガイ漁について簡単な漁業調査を行った。というのは、資源保護のため、オオノガイ漁をできるのは1年のうち1~2日程度であり、資源状況によっては漁を中止することもあるなど、極めて不安定な中で行われている漁であり、地域を特徴づける漁業について記録の必要があると考えたからだ。

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 漁は5月下旬から7月下旬の大潮の日を選んで行われる。長さ45cmほどの木製の柄が付いた3本歯の鍬で、泥炭質の潮間帯を20~30cmほど掘るとオオノガイが出てくる。資源保護のため、小さい貝はとらずに殻長7~8㎝ほどの貝が漁獲の中心であるという。根室市水産研究所の調査では、漁獲可能なサイズに成長するまで6年は要するとしている。成長が遅い貝なので乱獲の影響を受けやすく、過去の獲り過ぎの反省から先述のような漁獲制限を設けている。水揚げされたオオノガイは水管部分を干物にした製品に加工される。身を取り出して内臓をとった後、水管部分を開き、水管を覆う皮を剥いでいくという手間のかかる加工である。むき身は1週間ほど天日干しにされ「オオノガイの干物」が完成する。

 

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 さてここ数年、オオノガイ漁が行われる漁場を臨む温根沼湖岸の台地上で、縄文時代前期の貝塚の調査を実施している。貝塚を構成している貝は縄文人が食べた後に廃棄されたもので、アサリを主体にウバガイやオオノガイも出土している。まさに、現在私たちが利用している貝種と同じものを約6,000年前の人々が利用していたのである。貝塚から出土したオオノガイの殻長を調べてみると7cm~10㎝のものが多い。これも現在の漁獲サイズに相当する大きさであり、6㎝以下のサイズはほとんどみられない。廃棄された貝殻から判断する限り、無秩序な獲り方はせずに、ある程度の大きさのものを選択的に漁獲していたことがいえる。もしかしたら縄文人もオオノガイの成長の遅さを知っており、大きいものを優先的に獲って捕獲圧がかからないような工夫をしたのかもしれない。

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 ラムサール登録湿地というと、湿地の自然環境やそこに集う鳥類の保全とその賢明な利用(ワイズユース)が主体であるが、近年はその文化的価値も重視されつつある。過去から現在まで人々は生業や交通などの場であった湿地とどのように関わってきて、この環境を維持してきたのか?将来にこの素晴らしい自然環境を残すためにも、過去の利用の足跡をたどる必要があると思う。湿地のワイズユースに新展開をもたらす上で地方博物館の役割は大きい。

                                        <根室市歴史と自然の資料館 猪熊樹人>

次回は、帯広百年記念館の持田さんの投稿です。ご期待ください!