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ものがたりの昆虫〜葬儀屋さん〜 【コラムリレー第34回】

きらわれものだけど・・・

 

私たちの身の回りにはたくさんの昆虫がいます。害虫や不快なものとして嫌われがちな昆虫ですが、日本には昆虫との生活を楽しむ文化がありました。スズムシなど虫の音を心地よいと感じるのは日本人だけともいわれています。百年記念館のある緑ヶ丘公園では、子どもたちや、少年の気持ちを持ち続けた大人たちが昆虫採集を楽しむ姿をよく見かけます。蚊取り線香の香りを夏の風物詩として、懐かしく感じる方も多いのではないでしょうか。

好みはさまざまですが、昆虫は身近な存在で、私たちの生活と切っても切りはなせない関係にあります。そして、物語の中にもたくさんの昆虫が登場しています。

 

ものがたりに登場する昆虫

 

ヨツボシモンシデムシ

これは帯広市大山緑地で採集された「ヨツボシモンシデムシ」です。動物の死体に集まる昆虫で、それらを土へ返す役割を担い、「子育て」をする昆虫としても知られています。変わった生態をもつことから、フランスの博物学者ジャン=アンリ・ファーブルも注目しています。彼の著書「ファーブル昆虫記」は、みなさんが一度は手にしたことのある本だと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少年少女ファーブル昆虫記

 ファーブル昆虫記はこれまでに多数発行されていますが、今回はこの本に注目してみました。

 昨年、帯広市内の方から寄贈していたいた、1971年偕成社発行の「少年少女ファーブル昆虫記」です。私が初めて読んだのもこの昆虫記でした。この中から「シデムシ」という章を見ていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

ファーブル昆虫記「シデムシ」

 

このような、死体や糞など、腐ったものを食べる昆虫を腐食性昆虫といい、ファーブルは「葬儀屋さん」と呼んでいます。もぐらの死体はこのような虫が集まり、にぎやかになっていきます。

やはり、どの時代、どの国でも、死体にはハエが一番最初にやってくるようです。

エゾリスの死体に集まるハエ(クロバエ科) 帯広市緑ヶ丘公園

大山緑地で採集された腐食性昆虫

大山緑地で採集された腐食性昆虫

つまり、ぞっとするような死体の下で行われる作業も、すばらしい研究対象であり、気味が悪いという気持ちを抑えて挑んでみなさい、ということを言っています。こういった、ファーブルの格言(私はそう呼んでいます)が、昆虫記の中には随所に見られます。私は、昆虫採集の際、腐肉の下でうごめくウジの球を見たとしても、ファーブルが、「気味が悪いから嫌だ、などどいうのはやめましょう」といっていたこと思い出し、観察を続けることにしています。

ファーブルも勇気を出してモグラをひっくり返してみました。虫たちは逃げ出し、片隅でうずくまります。虫たちが行っていたことを、完訳ファーブル昆虫記(2008, 奥本)では、「彼らは生のために死を切り開いていたのだ」と崇高な表現をしています。

ムナゲシデムシは、新しい昆虫記では、モンシデムシに統一されています。帯広市大山緑地では、ヨツボシモンシデムシやツノグロモンシデムシが採集されています。死体に集まる虫は黒いものが多い中で、モンシデムシは背中にオレンジ色の帯や斑紋があり、少し華やかです。

また、ファーブルは習性も大変異なると言っています。それは、小型の動物死体を土中に埋める、モンシデムシ特有の習性です。このためモンシデムシは「埋葬虫」とも言われています。ネズミくらいの大きさがあれば、なんでも土中に埋めてしまいます。その後、毛や羽を取り除きながら、肉団子のように丸め、このそばに産卵します。肉団子が幼虫の餌となります。

死体を土中に埋める虫だということは、すでに知られていましたが、ファーブルは、実際にそれを観察するためモンシデムシを採集し、飼育します。

まず、採集するために、庭先に死んだモグラを転がしておき、腐ってくると、そのにおいを嗅ぎつけてモンシデムシが寄ってくるだろうと考えます。これはベイトトラップ法と呼ばれるもので、腐食性昆虫の採集に用いる方法です。

大山緑地で用いたベイトとラップ(鶏肉)。ファーブルが庭に置いたモグラと同じしくみで昆虫を採集することができる。

大山緑地で用いたベイトトラップ(鶏肉)。ファーブルが庭に置いたモグラと同じしくみで昆虫を採集。

このトラップでファーブルはモンシデムシを採集、モンシデムシがモグラの死体を埋葬し、将来幼虫の餌となる肉団子を作ることを確認します。

モンシデムシは幼虫に餌を与えるなど、子育ても行います。ファーブルはこの後も実験を続けますが、子育てをするということについては、最後までわからなかったようです。幼虫の生態については、成虫ほど興味深いものではないとして、手短に述べられています。

 

*****

 

モンシデムシ以外にもファーブル昆虫記には身近な昆虫が登場します。そして、ファーブル独特の表現によって、ただの観察記録ではなく、物語としても楽しむことができる内容で紹介されています。また、訳者による解釈の違いや発行された時代による違いなど、比べながら読むと子どものころとはまた異なるおもしろさがあると思います。

 

おわりに

 

ファーブルも注目していたモンシデムシを含む腐食性昆虫は、餌となる動物の死骸や糞に依存して生息しているため、環境変化の影響を受けやすい昆虫です。自然豊かな環境に生息する種類、都市化すると多く生息する種類などがあり、腐食性昆虫相を調べることで、その地域の環境状態を知ることができます。あまり目立たず、人気者ではありませんが、ファーブルの時代にも葬儀屋さんとして活躍していた昆虫に注目です。

 

 

<引用文献>

古川晴男訳. 1971. 少年少女ファーブル昆虫記5甲虫ものがたり. 偕成社.

奥本大三郎訳. 2008. 完訳ファーブル昆虫記第6巻上. 集英社.

山田吉彦・林達夫訳. 1993. 完訳ファーブル昆虫記6. 岩波書店.

 <帯広百年記念館 伊藤 彩子>