北海道の風景を眺めたことはありますか?広い道路を車で走り抜けると、風景を彩る色とりどりの花たちに目を留めるでしょう。「北海道らしい、自然豊かな景色」のように目に映るかもしれません。でも、これらの植物たちの中には、もともと北海道には生育していなかった”帰化植物”も多いのです。
○北海道の帰化植物事情
帰化植物は「人間の活動によって、偶然または意図的に、本来の生育地からもともと自生していない地域に運ばれ、野生化した植物」のことを言い※注、外国や日本の別の地域から、貨物や家畜の飼料などに種が偶然混ざって運ばれたり、鑑賞用や作物として植えられていた植物の種が逃げ出したりして増えたりしたものです。よく耳にする外来種「セイヨウタンポポ」も帰化植物で、もともとは札幌農学校(現・北海道大学農学部)の外国人教師が野菜として持ち込んだという説があり、現在は日本の各地で繁殖しています。
帰化植物は大繁殖することで、農林業被害を引き起こしたり、生物たちが長い年月をかけて築いてきた植生や風景、その多様性を壊してしまうこともあります。
○外来種が”懐かしい?”
一方、帰化植物のある風景が「地域の風景」になりつつあると筆者が感じたエピソードがあります。休日に植物の写真を撮影していると、通りすがりの方から「最近、ムシトリナデシコを見ないから寂しい」という話をされたことが時々あります。ムシトリナデシコ(虫取撫子)は荒地を好み、全国各地で目にすることができます。工場用地や河川改修、宅地開発などの土地の造成が行われると、帰化植物も含めた新たな植物たちが侵入を始めます。苫小牧でも開発のために湿地やハンノキ林などの土地が造成された後、裸地にムシトリナデシコが侵入し、一時的に鮮やかな桃色の花たちを咲かせていたといいます。その様子をながめてきた人にとっては、それが「懐かしい風景」として記憶に焼き付いたのでしょう。
最近では、同じ桃色の帰化植物でも「シャグマハギ(赤熊萩)」という花が道路で淡い桃色の花を一面に咲かせています。ユニークな外観を持ち、加工が容易なことから観賞用として広まった植物の一つです。そして秋口になると、真っ白いレースのような花や、紫色の野菊が道を覆います。前者はノラニンジン、後者はユウゼンギク(またはネバリノギク)、という種です。人参、野菊、というと古来日本に伝わった伝統的な植物に聞こえますが、どちらも帰化植物です。いつの間にか、外来種の咲き乱れる風景が「美しい、故郷の風景」になりつつあるのかもしれません。
○移り変わる風景
この土地が「北海道」と名付けられ150年が経ちますが、その間に風景も変化しつつあります。道端の空地の様子を見ても、オオイタドリなどの在来種が、帰化植物たちと一緒に道路の上で咲き乱れています。一見、美しい秋の風景にも見えますが、植物にとっては、生き残りをかける”戦い”でもあります。そのような様子をながめた時、本当に「植物や生物を愛でる」ということは、どのようなことなのか考えてみませんか。
※注:帰化植物は、運ばれて定着した時代によって「史前帰化植物」と江戸時代末期に定着した「新帰化植物」に分けられる場合がありますが、本記事では「新帰化植物」として定義します。
【みちくさ研究所in苫小牧 (元・苫小牧市美術博物館主任学芸員) 代表 小玉愛子】
引用・参考文献
五十嵐博.2016.北海道外来植物便覧―2015年版―.北海道大学出版会.札幌
清水建美.2003.日本の帰化植物.東京
清水・森田・廣田.2008.日本帰化植物写真図鑑Ⅰ.全国農村教育協会.東京