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地域ならではの生き物の呼び名~ゴダッペを例に~【コラムリレー第35回】

みなさんは人や物の正式な名前を覚えていますか、物の名前、地名、生き物の名前、人の姓名・・・。気にしてみると、意外に知らないものです。

地域の人たちとの話をする中で、生き物の話をしていると、その生き物の地方名が出てきます。しかし、地域の人々にとってはそれが普段からの呼び名であり、標準和名を知らない人が多いのです。聞くと、「昔から親の話している“音”で覚えている」という返答が帰ってくることが多く、今までに聞いたものでは、スカンコ(ヒメスイバ)やチュンチュン(カワハギの仲間)、ゴダッペ(ウキゴリの仲間)などがありました。今回は、その中でもゴダッペという魚の名前を知ったきっかけについてお話します。

写真:シマウキゴリ(ゴダッペ)

ある日、近所に住んでいる年配の方との何気ない会話の中で「昔“ゴダッペ”という魚をよく捕まえて遊んだ。今もいるのか気になるから探してみてくれ。」とお願いされました。調べてみると、ゴダッペは北海道の方言で「淡水ハゼの総称、小さなコマイ」とあり、早速、昔捕まえて遊んだという場所を聞き、タモ網にバケツを手に“ゴダッペ”の正体に迫ることにしました。すると、ヤマメやイワナ、ニジマスなどのサケ科の魚や、ウグイやハナカジカが見つかり、その中に当時の私が初めて目にするシマウキゴリというハゼ科の魚が見つかりました。後日、持ち帰ったシマウキゴリを近所の方に見てもらい、えりも町ではゴダッペがウキゴリの仲間のことを指すということを知りました。

写真:飼育展示中のシマウキゴリ

その後、郷土資料館でシマウキゴリの飼育展示をしてみると、来館したお年寄りや、40代前後の方々が水槽の前で足を止めて見ていることが多く、私が話しかけると、「昔よく子どもと一緒に捕まえに行った魚だ。」とか、「懐かしい。まだいるんだ。」という声を聞き、ゴダッペという魚はえりも町で育った一定の世代の人々の中でとても思い出深い生き物であるということが分かりました。しかし、同時に「今の子(子ども)たち自然で遊ばないから、こういう生き物知らないよね。」との声もありました。

さらに話を聞いてみると、昔は、近所のお兄さん、お姉さんと一緒に遊び、お兄さん、お姉さんから遊びながら教わることによって、次の世代に伝えられてきた生き物たちが近年、遊びや世相が変化し、自然の中で生き物を採取して遊ぶ子どもたちが減ったことによって、その生き物の存在も徐々に忘れられていっているのではないかということでした。

地域の人々の思い出の中にあったり、親しみがあるからこそ、地方名が残っていると私は考えています。普段の何気ない日常会話や、昔話の採録を行う中で出てきた、そのような地域ならでは名前がある生物とその存在を標準和名とともに、忘れ去られることのないよう地域の人々に伝え、残していきたいと思います。

 

〈えりも町郷土資料館 地域おこし協力隊 髙木大稔〉