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林相に見る富良野盆地その昔【コラムリレー第31回】

「へー。この辺に貴重な植物とかあるの?」

植生調査をしているときによくかけられる言葉です。残念ながら貴重な植物を「絶滅危惧種」や「天然記念物」だとすれば、たいていは否というしかありません。でも、家々の近くにある身近な自然は特別な種を含んでいなくても、私達の生活を縁の下で支えている自然、大切な宝物です。本稿では、富良野盆地にあるそんな地元の自然を紹介します。

私の住んでいる富良野盆地は、北海道の多くの低地と同じく、かつてはハンノキやヤチダモなどが立ち並ぶ湿地林が広がっていました。明治30年ごろに人々の入植がはじまり、約120年を経た現在では、そのほとんどが市街地や農村として開発されています。

その中で、市街地からほど近い鳥沼公園は神社として、また憩いの公園とされ豊かな自然が残されてきました。大正9年には道道が開通し、東西に分断されましたが、東側は豊富な湧水をたたえる「鳥沼」やその周りを囲むアサダ、ミズナラなどの林、西側は「ハンノキの林」と呼ばれる湿地林となっており、ミズバショウやヘイケボタルを鑑賞に来る人も多くいます。

 

富良野市博物館は、この「ハンノキの林」の木々を調べる調査を行いました。幹の直径(胸の高さで計測)が10㎝を超す樹木を対象に、樹種と幹の直径を記録する調査です。

林は散策路で5つのエリア(A~E区)に分けられていますが、代表でA区、B区、E区の木々の種類の構成を比べてみます。

A区は園路を整備した時に盛土されて地盤が若干高くなった湿り気の少ないエリアです。ここでは湿地林に特徴的なハンノキ(青)やヤチダモ(赤)は半数程度でした。公園中央部のB区はより湿った環境で、ハンノキとヤチダモが6割を占めていました。ベベルイ川の河川敷に接したE区はかなり乾燥気味であるため、この2種は合わせて4割にも達していません。一方で外来種のニセアカシア(緑)が2割ほど占めていました。写真は河川敷沿いのニセアカシア(公園外)が咲き乱れる様子ですが、ここを基点に公園内に勢力をのばしていることが容易に想像できます。

B区では、20年ほどさかのぼった1995年に富良野高校科学部が行った樹木調査結果が残っていたので、調査方法をそろえた上で(胸高直径2㎝を超す樹木まで対象)比較することができました。その結果を見てみると・・・

1995年には全体の4割近くを占めていたハンノキが2013年には約1割にまで激減しています。ヤチダモは少し増えていますが、この2種を合わせた割合で見ると、1割ほど減っていました。こうした結果は乾燥化や外来種の増加などを物語っており、その原因は雪風による倒木などの自然的な要因もありますが、多くは道路や散策路の開削などの人の営みがもたらしたもののようです。

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身近な地域の自然はたいてい「ありふれた」もののように見えます。そんな自然が時と共に「ありふれた」存在ではなくなってはじめて「宝物」だったことに気づかされます。「以前はどこでもホタルが見られたんだけどね。」とは、そこここで年輩の方がよく口にする言葉です。

富良野市博物館では、鳥沼公園で外来植物の抜き取りをしたり、湿地に水を貯める工夫を考えたりもしていますが、地域の自然を守るために一番大切なことは、地元の人が好きになり、少しでも気にかけてくれることだと思います。この調査も一般の方と共に作業することで地域の自然に親しんでもらえたらと願い、実施しました。

皆さんの近所にも、ありふれているけれど、実はとても好きなところかも!というところはありませんか?もしあったら、今まで以上に通って親しみ、できれば友達を誘って好きな人を増やしてください。それぞれの地域の人がそれぞれの「ありふれた」自然を残す、そうやって未来が形作られていけばいいなと思います。

 

 

<富良野市博物館  学芸員 泉 団>