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”無形”民俗文化財のこと【コラムリレー第29回】

私たちのまわりにある様々な文化財を保護・活用していくための考え方として、「文化財保護法」という国の法律があります。
この「文化財保護法」では、文化財を次のような種類に大区分しています。
●有形文化財
●無形文化財
●民俗文化財
●記念物
●文化的景観
●伝統的建造物群
●文化財の保存技術
●埋蔵文化財

このうち、民俗文化財はさらに
●無形の民俗文化財
●有形の民俗文化財
に分けれています。

江差町には、北海道指定無形民俗文化財全7件のうち5件があり、古くからの歴史文化が今なお地域に息づいていることがうかがえます。

よく、無形民俗文化財を伝承している方々やそれらの文化財が好きな方々から、「昔と違ってきている」という言葉をいただきます。
その際には、その内容によって伝承者へお伝えすることもありますし、「そこは違ってもいいんです」と答えることもあります。
「そこは違ってもいいんです」という答えをする場合には、「”無形”という言葉には、”変化することが前提となっている”ということです」とも答えています。

この「変化すること」には様々な意味合いがあります。

この2つの映像は、ともに江差町柳崎地区で伝承されている土場鹿子舞(町指定無形民俗文化財)です。
上の映像は昭和40年代、下の映像は平成14年のものです。約30年の間隔があります。
当然、演者も年を取りますので、テンポがゆっくりになっています。
また、演者が変われば、身長も違うし声の高さも違うので、昔と違ってくることは当然です。

もちろん、違ってはまずいという変化もあります。

この2枚の写真は、江差町五勝手地区で伝承されている五勝手鹿子舞(道指定無形民俗文化財)の歌詞資料です。
上の写真が古い資料、下の写真が新しい資料です。
「よりにからまる」の部分をご覧いただくと、上の写真が「縁(えん)」、下の写真が「緑(みどり)」となっています。
これはおそらく、古い資料から新しい資料へ書き写す際に誤記をしてしまったのだと思います。
しかし、しばらくの間、五勝手鹿子舞では「縁(えん)」でなく「緑(みどり)」という歌詞を歌っていました。
私もとある民俗芸能に参加していますが、演じている時にはみんなに合わせて間違わないようにということばかりを考えているので、このような細かな変化には気付かないものです。
いまでは昔の通りに「縁(えん)」という歌詞で伝承されています。

このように、無形民俗文化財は「変化」が当然のことと「変化」しないほうがよいことの微妙な立場で保存・活用をしていかなければなりません。
そのための一手段として、次世代の継承者のためにも、私はとにかく映像を残すことに努めています。