国道のスキマに多い植物は?
アスファルトの割れ目など、道路のスキマに生える植物のことを「路面間隙雑草」と言います。道路のスキマは、人間が思っている以上に過酷な環境です。アスファルト道路には土がほとんど無く、深く根を張ることができません。夏の日中には灼熱地獄になり、真冬には凍結。物理的な影響も大きく、さまざまな変化を頻繁に繰り返す、不安定な環境です。
こうした道路のスキマには、生える事のできる植物が限られます。競争相手の少ない空間にマッチした生き方を求めて、今日もさまざまな路面間隙雑草が、全国の道路のスキマで暮らしています。
帯広百年記念館へ勤務していた2013年から、私は道路のスキマにどんな植物が生えているのか?追跡してみる事にしました。対象としたのは国道38号線。北海道滝川市大町一丁目交差点を起点とし、釧路市大川町の幣舞ロータリーを終点とする、総延長298.4kmの幹線道路です。雪の多い日本海側から、狩勝峠を越えて雪の少ない太平洋側へ抜ける幹線道路。都市、農村、山地、海辺と、環境がどんどん変化していく、興味深い国道です。
キロポスト(距離標)を見ながら10km毎に立ち止まり、歩道と車道の間にある道路のスキマで植物を探す、楽しい旅の時間です。
東北地方の国道と比べて見る
3年間の調査の結果、全線に渡って出現頻度の高かった植物は、シロザの仲間(アカザ科)、イネ科の仲間、オオバコの仲間(オオバコ科)、キク科の仲間、ツメクサの仲間(ナデシコ科)、ミチヤナギの仲間(タデ科)でした。
実は同様の調査は、宇都宮大学の須藤裕子さん達によって、既に東北地方の国道で研究されていました。そこで調査結果を比べて見ると、オオバコとイネ科のニワホコリは、本州の国道でも高い頻度で出現していました。それ以外の植物については違いがみられましたが、北海道と東北では、もともとの植物相(フロラ)が異なるため、種を比較するだけでは意味がありません。
そこで、植物の生態に着目して、特徴を比べてみました。北海道でも東北でも、最も多く見られた植物は一年草でした。多年草では、東北で多く見られた地中植物(冬の間、芽が地面の下に埋まっている植物)の割合が北海道では少なく、地表植物と半地中植物の割合が多い事がわかりました。また、根元からたくさんの枝をブッシュ状に出す叢生型の植物よりも、上部で枝分れをする分枝型の植物の割合が高い事もわかりました。これも東北地方とは逆の傾向でした。
雪の多い地域と少ない地域で、出現する植物に違いはみられなかったのは意外でした。一方で、釧路市音別町から東の区間では、オオバコがエゾオオバコに、ツメクサがエゾハマツメクサやウシオツメクサに置き換わりました。いずれの植物も海岸性で、沿岸部を通る地域の特徴が現れています。内陸の農村部ではシロザの種類が多様になるといった傾向もみられました。
名前のわからない植物もありました。持ち帰って標本を作り、時間をかけて検討した結果、雑種とわかりましたが、まだよくわからない植物が残っており、今も検討中です。
台風被害を乗り越えて
2015年に浦幌町立博物館へ移り、再び調査を再開した矢先の2016年夏、台風が北海道を襲いました。狩勝峠は開通しましたが、日勝峠は未だに再開できていません。実は日勝峠の国道274号線でも細々と調査をしていましたが、当面これは出来なくなりました。
国道38号線と並行しているJR根室本線でも、踏切やホームに生えている植物を調べていました。同じ滝川〜釧路間で、道路と鉄道を比較してみようと思っていたのです。しかし、台風後に根室本線は東鹿越〜新得間で寸断され、再開の見込みがたっていません。
国道38号線も随所で被害を受け、改修工事がされました。スキマの植物たちも影響を受けた可能性があります。今後もその変化を追ってみたいと思います。
<浦幌町立博物館 学芸員 持田誠>