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黒曜石ができるまで【コラムリレー第14回】

黒曜石とは、北海道では“十勝石”というあだ名でも親しまれる、火山の噴火によって生み出される岩石です。ほとんどがガラスでできているという特徴を持っています。今回はこれまでの研究によって明らかになってきた、黒曜石の成り立ちに関するお話です。

黒曜石のもとになるのは、岩石が高温でドロドロに溶けた“マグマ”です。一言にマグマといっても、その成分や含まれる水の量などによって、ケチャップのような粘り気になったり、ピーナッツバターのような粘り気になったりします。黒曜石は、ピーナッツバター(より固い)マグマが噴火することで、生み出されます。

マグマの粘り気に似た身近な食べ物。玄武岩がケチャップくらい、流紋岩はピーナッツバターより固い(Baker et al.,2004JGE)。

学校にある25mプールを1カップとしたときに、何カップほどのマグマが噴火して黒曜石が生み出されたのかを色々な火山で見てみると、おおむね3万〜3億カップ(0.01 km3〜100 km3)ほどの範囲に入るようです。この量をみると、地球の活動のスケールの大きさがよくわかります。

 

黒曜石溶岩のお仲間のひとつであるアメリカのLittle Glass Mountain。約1,000年前に噴火しました。

 

白滝の十勝石沢溶岩の露頭写真。黒い部分が黒曜石の層で、厚さがおよそ7mほどあります。

粘り気の大きなマグマを地下に用意したところで、噴火して地上に現れなければ黒曜石にはなりません。ではいったいどのように地下から地上へ現れたのでしょうか?黒曜石を詳しく調べることで、地下から地上へどのように進んで来たかがだんだんとわかってきました。

遠軽町白滝地域にある十勝石沢溶岩という溶岩の黒曜石を実際に調べたところ、マグマは非常にゆっくりと地下から地上に進んで来たことがわかりました。その速さは1日に10m進むくらいで、カタツムリが進むスピードよりはるかにゆっくりです。

このゆっくりとした速さでの移動は、黒曜石の成り立ちまつわる大きなナゾをもたらします。黒曜石は大部分がガラスからなる岩石です。マグマが地下から地上に向かって上昇すると、マグマにかかる圧力が下がることでマグマの含水量が下がり、マグマの中に結晶が現れます。また、ゆっくり上がるということは、その分マグマは冷却の影響を受けるため、これまた結晶を生み出すはずです。

しかしながら、黒曜石には結晶はほとんど含まれません。噴火して地上で冷やされるまでに結晶を生み出すチャンスを与えられておきながら、実際にはほとんど結晶が含まれていないのです。

黒曜石を生み出す噴火のイメージ図。

これは黒曜石の成り立ちに関してよくわかっていない部分で、ピーナッツバターより固いマグマにとって、どのくらいの速さで冷やすのが“急冷”になるのかということを明らかにしなければなりません。今後の研究が期待される楽しみな部分でもあります。

白滝地域では粘りの強いマグマが噴火することで、大部分がガラスからなる黒曜石が生まれました。ガラスでできている石だからこそ、加工のしやすさや割れた断面が刃物のようにするどくなるという特徴が重宝され、石器の材料として利用されました。

黒曜石は、現代の我々よりももっとずっと昔から人々が自然と関わりあっていたことを示す石ということができます。現代の私たちの生活でも、自然との関わり合いはなくてはならないものです。きっかけのひとつにすぎませんが、黒曜石を通して自然の素晴らしさや面白さを伝えられるよう、日々活動を続けています。

 

遠軽町白滝ジオパーク地質専門員 佐野恭平

 

[参考文献]

和田恵治, 佐野恭平. 白滝黒曜石の化学組成と微細組織―原産地推定のための地質・岩石資料―旧石器研究 第7号 (2011)

和田恵治,佐野恭平. 北海道,白滝ジオパークの黒曜石溶岩の内部構造. 火山第60巻 (2015) 151–158.

Baker, D.R., Dalpe, C., Poirier, G. The Viscosities of Foods as Analogs for Silicate Melts. Journal of Geoscience Education 52 (2004) 363–367.

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Sano K., Wada, K., Sato, E. Rates of water exsolution and magma ascent inferred from microstructures and chemical analyses of the Tokachi–Ishizawa obsidian lava, Shirataki, northern Hokkaido, Japan ” Journal of Volcanology and Geothermal Research 292 (2015) 29–40.