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考古資料と民族資料【コラムリレー第13回】

5世紀〜9世紀を中心に主に道北、道東でみられるオホーツク文化期の人々は、クジラ類などの骨を使い、銛先や釣針など多種多様な狩猟具や漁具を作り出しました。

近年、私が注目している資料で、クジラ骨で作られた突起のついた棒状の骨器があります。骨斧の一種として捉えられてきた資料ですが、戦前に発掘された資料を中心に40点ほど調査した結果、特に、根室半島と北方四島のオホーツク文化期遺跡でみられ、他の地域ではあまり見られないと考えています。また、中部千島の新知島や北千島の幌筵島でも同様の骨器が見つかっており、オホーツク文化期における根室地域と千島列島の直接的な往来を示唆する資料となるのではないかと考えています。

棒状骨器の事例と分布(資料はすべて根室市教育委員会蔵)

ところで、この棒状骨器は端部が尖っていて、摩滅してツルツルになっており、使用により傷が付いているものやえぐれているものもあり、一体何に使われたのか気になります。これまで、刺突具、銛先の中柄、アイスピックといった用途が想定されていますが、突起の存在や使用部分の状態を考えると、柄に括り付けて、打ちつけるように使ったのだろうと思います。民族資料には銛の柄の後ろにアイスピックが付くものや、両端が尖った骨器の中央に柄を付けたアイスピックが存在するので、私はアイスピック説を支持しています。民族資料の検討も大事であると考え、参考になりそうな資料を探したところ、バンクーバーにあるUBC人類学博物館の所蔵資料にイヌイットが使っていたアイスピックやアイスピック付きの銛を所蔵しており、調査することができました。

アイスピック(民族資料)※筆者撮影

資料の検索にはアメリカやカナダの博物館数館が参加するデータベースやコレクションに関するフォーラムがあって、大変参考になりました。資料の画像や大きさ、収集地などのデータを公開し、メールのやり取りだけで、私のような特に研究機関にも所属していない者にも対応してくれるのは素晴らしいと思いました。同時にコレクションを発信する重要さも再認識させられました。

考古資料の用途や機能を特定するのは容易ではありません。アイスピックと考えていても他の用途で使われたかもしれません。考古資料の用途を様々な角度から検討する上で、民族資料は大変勉強になります。
データベースのデータベースが必要なほど、たくさんのデータベースがネット上にはありますが、普段から地道な資料渉猟を続け、原資料に当たる姿勢を持ちたいと思います。

根室市歴史と自然の資料館 猪熊樹人