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たかが貝殻,されど貝殻【コラムリレー第20回】

地球上でもっとも長生きの動物は何だと思いますか?
「鶴は千年,亀は万年」と言われ,長寿のシンボルとされてきました.
実際にはツルの仲間の寿命は20~50年,亀でもゾウガメの仲間は200年以上生きるといわれています.

これまで,確認できている最高齢の動物は…
北大西洋に生息する二枚貝の“アイスランドガイ”で,その御歳507歳!
この個体が生まれた頃,中国では明王朝が支配していたことから,“Ming”と名付けられています.
このアイスランドガイの見た目は,北海道でおなじみのウバガイ(ホッキガイ)にそっくりです.

二枚貝の貝殻には,殻の表面や断面に『成長線』が見られます.その本数を数えると,木の年輪とおなじように,その個体の年齢がわかり,さらに貝殻にカレンダーの日付をいれることができるのです.
この成長縞と貝殻の化学組成には,その貝が生きていた間の生態や環境の情報がぎっしり詰まっています.

現在,アイスランドガイを中心に,長寿命種の貝殻を使った研究から,過去の環境を復元する研究が,世界中で多く行なわれています.
その中で,博物館に収蔵されている貝殻資料に注目が集まっています.

例えば,ドイツの研究チームは今から137年前に採集され,大学の博物館で保管されていた,374歳のアイスランドガイ貝殻を用いて,1494~1868年の気候を復元しています.

実は北海道沿岸や河川にも,長寿命の二枚貝類が多く生息しています.アイヌの人たちが穂摘み具として利用していたピパ(カワシンジュガイ)は100年以上,白ミルとして寿司ネタでおなじみのナミガイは150年と非常に長い寿命であることがわかりつつあります.

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苫小牧市の貝でもあるウバガイも,50年以上と長生きで,殻断面には年輪(冬輪)が見られます.現在,苫小牧市美術博物館に収蔵されている標本を用いて,一つの貝殻を丁寧に観察,分析し,過去数十~数百年間の環境記録を読み取る試みを進めています.

貝殻には寿命のほか,どのように成長したのか,いつ放精放卵したのかといった生態や,海水温や塩分などの海洋環境変動,台風や嵐といった突発的なイベントの情報が残されているのです.

今後,貝殻の解析結果から,苫小牧や北海道の歴史の背景にある,当時の気候/気象を知ることを目指しています.

ただのひとつの貝殻ですが,それは海況や気象データベータにも勝る,重要な記録媒体なのです.

たかが貝殻,されど貝殻,なのです.

(苫小牧市美術博物館 宮地 鼓)