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エゾタンポポとシコタンタンポポ ~苫小牧の在来タンポポを探して~【コラムリレー第35回】

はじめに  

2009年、苫小牧市博物館友の会のMさんから、「苫小牧の海辺に在来種のタンポポが群生している」という情報が寄せられました。翌年、Mさんと一緒に北海道野生植物研究所の五十嵐 博 氏に現場を案内したところ、全てシコタンタンポポだということが分かりました。「外来種のセイヨウタンポポは繁殖スピードが速く、そのため在来種は駆逐され、急激に減少している」と以前から言われていましたが、苫小牧も同様で、在来種のタンポポが群生していることは非常に珍しいケースです。  その後、Mさんや、友の会の「タンポポ調査グループ」の方々と共に調べてみると、市内には、まだ在来種のタンポポ、シコタンタンポポとエゾタンポポが、ねばり強く生きていることがわかりました。苫小牧の事例を少し紹介したいと思います。

苫小牧市内有明海岸のシコタンタンポポの群落(2011年6月撮影)

苫小牧市内有明海岸のシコタンタンポポの群落(2011年6月撮影)

タンポポの種類

日本には、約18種類の在来種のタンポポがあると言われています。これは更に「モウコタンポポ節」と「ミヤマタンポポ節」の2つのグループに分けられ、北海道に生育する在来種のタンポポは後者に属します。一方、外国のタンポポは、マイクロスピーシーズ(微小種)レベルで細かく分類すると1,500種以上が存在するとされています(これらを完全に分類することは難しいため、以下の文面では、外国のタンポポをまとめて「セイヨウタンポポ」と記載します)。 タンポポを葉の形態などで分類するのは難しく、一番の決め手になるのは、花の「外総苞片(がいそうほうへん)」と呼ばれる、外側の「がく」の形です。セイヨウタンポポは外総苞片が「タコの足」のように下を向き、在来種のタンポポはが外総苞片上を向くのが大きな特徴です。DNAレベルでは純粋な在来種または外来種は少ないとされていますが、屋外で観察をするときは、これが大きな見分け方になります。

日本におけるセイヨウタンポポ

日本では、札幌農学校に食糧として導入されたセイヨウタンポポが逃げ出して、外来種として広く生育するようになったいう記載があります。市街地や公園を見回してみると、目につくのは、セイヨウタンポポばかりです。それでは、本当に在来のタンポポはセイヨウタンポポに負けて、消えてしまったのでしょうか?

 

生育環境  

セイヨウタンポポは、明るい場所であればどこでも見られます。在来種のタンポポに比べると、暗い場所は苦手なようです。花期は、3~11月までととても長く、雪が積もるまで咲き続けている様子を見ることができます。  一方、苫小牧で目撃される在来種のタンポポ2、エゾタンポポとシコタンタンポポの花期は、4~6月中旬。そして、セイヨウタンポポに比べると、生育場所も好き嫌いがあるということが分ってきました。

エゾタンポポは、明るい(暗くなりすぎない)森の中、草刈が適度に行われている森林公園、校庭の緑地帯などに多く見つかりました。タチツボスミレ、ベニバナイチヤクソウ、フデリンドウと一緒に見つかることが多く、単立して生息することが多かったです。

エゾタンポポ(2013年6月 苫小牧市内金太郎の池 林縁部で撮影)

エゾタンポポ(2013年6月 苫小牧市内金太郎の池 林縁部で撮影)

 

一方、シコタンタンポポは、海岸沿いの明るい場所で見つかりました。エゾタンポポとは逆に群生していることが多く、単立して生育することは少ないです。市民の方からも情報が寄せられ、ウトナイ周辺の造成地などでも、ウンランやシロヨモギと一緒に生育していることが分ってきました。春季に気をつけて観察すれば、もっといろいろな場所で生育しているのだと考えられます。 苫小牧では、在来種のタンポポは、ひっそりと、でも元気に生育していたことが分かりました。「苫小牧の在来種のタンポポは消えた」と言われてきたのは「花期の短さ」そして「生育に適した環境(明るい天然林や砂浜)が減少したから」という理由があったからではないでしょうか。

シコタンタンポポ。苫小牧市内の国道36号線沿いで発見したもの(2013年6月撮影)

シコタンタンポポ。苫小牧市内の国道36号線沿いで発見したもの(2013年6月撮影)

これからのタンポポ  

それでは、これらの在来種のタンポポはセイヨウタンポポの影響を全く受けていないのでしょうか?それについては、まだ結論を出すことが出来ません。本州では、カンサイタンポポがセイヨウタンポポから受精の段階で繁殖干渉を受けていることが報告されており(西田ほか,2013)、苫小牧でも、セイヨウタンポポとシコタンタンポポ、エゾタンポポが混在している環境では、何らかの干渉を受けている可能性があります。シコタンタンポポの群生地については、Mさんが発見した群生地を2010年度から継続調査をしております。エゾタンポポの生育地についても、(1)目撃地 (2)周辺のエゾタンポポ・セイヨウタンポポの花数 などの情報を集積していきたいと思います。 タンポポ、という身近な植物を通じて(1)植物の好きな場所とその環境、(2)外来種から受けている影響の有無 について、これからも市民の方々と一緒に調べていきたいです。

※これは、平成25年9月14日の「苫小牧市博物館大学講座」にて筆者が講演をした内容を、まとめたものです。苫小牧市外のみなさまからも、タンポポにまつわる情報を寄せていただければ幸いです。

市民文化公園内のエゾタンポポの群落。タチツボスミレ、ツボスミレと一緒に生育していました(2013年6月撮影)

市民文化公園内のエゾタンポポの群落。タチツボスミレ、ツボスミレと一緒に生育していました(2013年6月撮影)

(引用文献)

小川潔(2001)日本のタンポポとセイヨウタンポポ,どうぶつ 社

西田佐知子・金岡雅浩・橋本佳祐・高倉耕一・西田隆義(2013)繁殖干渉における花粉-めしべ間の相互作用:在来タンポポ2種における外来種花粉の花粉管伸長(英文),Functional Ecology

〈苫小牧市美術博物館 学芸員 小玉愛子〉

 

☆次回のコラムリレーは、むかわ町立穂別博物館の櫻井和彦さんです。お楽しみに!