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残して行きたい北海道のきれいな星空【コラムリレー第27回】

このコラムリレーは、「北海道で残したいモノ、伝えたいモノ」を各学芸員が紹介しているものだが、理系の学芸員が少ないこともあり、科学に関する話題が少ないように思う。現在の私の職場は美術館ではあるが、科学系の学芸員として長くプラネタリアンなどをやってきたこともあり、ちょっと違う角度からのアプローチになればと考えたのだが、まずはとにかく“星をながめてみませんか”。

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夏の大三角と天の川(撮影 西村裕司氏)

 

博物館や学芸員としては、その町や地域ということへのこだわりをもって日々業務に当たっている。つまりその町ならではの歴史資料の収集であったり、その土地の動植物の実態調査であったりする訳である。ところが星空ということになると、とりあえず日本であれば、基本的にどこで見ても同じ星空ということになる。逆に考えれば、晴れてさえいれば日本中で多くの人々が同時に同じ天体を見上げるという、何かちょっとロマンティックなこともあり得る。今年の「中秋の名月」は、9月19日だが、きっと多くの人が空を見上げ、お月見を楽しむものと思う。

いつも北海道で星をながめているわけだが、たまに南の土地へ行くと、夏であれば「さそり座」が高いところに見えたり、冬であれば北海道では見ることができない「カノープス」を見ることができたりする。そして、なんとも違和感があるのが、「北極星」の高さで、やけに低いところで輝いているように感じるのである。まさに日本列島が南北に長いことを実感する時でもある。

写真3

北極星近辺の日周運動(撮影 西村裕司氏)

 

その地域でしか見られない天文現象ということになると、「掩蔽(えんぺい)」や「食」(しょく)といった現象がある。「掩蔽」は、ある天体の前を他の天体が通過するために隠される現象であり、「食」は、ある天体が別の天体の影に入る現象である。どちらも見られる場所が限られる。最近では、全国的に話題になった2012年5月21日の「金環日食」が記憶に新しいものと思う。ただしその時、残念ながら北海道では金環日食としては見られなかった。日食は毎年のように地球上のどこかで見られる現象ではあるが、見られる地域がとても限られてしまうことから、見るチャンスが少ない天文現象なのである。次回、日本で見られる「金環日食」は、203061日で、なんと見られる場所は、北海道である。

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金環日食(撮影 西村裕司氏)

 

北の大地北海道だからこそ見られる確率の高い、太陽に関わる自然現象がある。オーロラである。ただし、一般的にイメージされる光のカーテンという感じではなく、夕焼けや朝焼けのような感じで赤く見える「低緯度オーロラ」と呼ばれているものである。オーロラは太陽表面での大爆発「フレアー」などの影響により、極地などで見られる大気の発光現象であるが、日本でも結構観測されているものである。

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低緯度オーロラ(撮影 佐野康男氏)

 

さて、天文学と言えばとても奥深いものがあり、難解でもあると思うが、ただ星をながめ宇宙の中に身をゆだねるのには、理屈などいらないのである。天体観測といえば望遠鏡が不可欠と考えがちだが、星空を楽しむには倍率が10倍以下の双眼鏡がお勧めだ。本州が梅雨空で星が見られない5月から6月、北海道では晴れることが多く、星空を楽しむには良い時期である。また、9月10月とこれから秋が進むにつれて、晴れた日の夜はかなり冷えこむ。ぜひとも厚着をして、風邪を引かないようにして星見を楽しんでほしい。真冬ともなれば、星をながめること自体が、北海道では命がけとなるかもしれない。だが、吹雪の合間の「冬の星座」などは、また格別な美しさがある。この北海道のきれいな星空をいつまでも残して行きたいものである。さらにはきれいな星空を子々孫々まで残していくことは、私たちの責務なのだと思う。

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オリオン大星雲(撮影 西村裕司氏)

 

きれいな星空を守るためには、まず空気を汚さないことが一番であるが、工場などからのばい煙や、車の排気ガスなど、地球温暖化対策の関係もあり厳しく規制され、それなりの効果が出ているものと思う。私たちの生活に関わるものとして、気をつけて行きたいものだ。

星空ということで気になるのは、なんと言っても「光害(こうがい)」である。暗い空ではきれいに見える星たちも、明るい空ではその輝きが目立たなくなってしまう。夜道を照らす街灯は防犯の意味からも必要なものであるし、店舗の照明も商売の面から必要なものである。問題は、空を明るくしてしまう照明である。

東日本大震災後、電気をはじめとしてエネルギーを無駄に消費しないようにと、節電などの「省エネ」への関心が高まっている。エコカーやLED照明の普及は、その表れの一つだろう。エネルギーの無駄遣いを避けるためにも、空を明るく照らす必要はないのである。

毛無峠からみた北天日周運動

毛無山から撮影した北斗七星と夜景(撮影 西村裕司氏)

投稿締切り直前になりすいませんでした。               市立小樽美術館 旭

 

次回(明日)は「いしかり砂丘の風資料館」の荒山千恵さんのコラムですどうぞお楽しみに。